勝利が「マスト」だったアイスランド戦
試合の後のプレスルームは静かだった。オランダ紙『デ・テレグラフ』のトビアス・ヘンドリクセン記者が、まくし立てる。
「これだよ。これだ。“これ”が、オレたちが3位にいる理由さ」
2015年9月3日、アムステルダム中央駅から、地下鉄M54番線。メトロはスタジアムへと向かう。車内のアイスランド人が、途中の駅で乗ってきたオランダ人を茶化す。
来夏のフランスに向けた欧州選手権予選のグループA――。アイスランドは首位に、オランダは3位に付けている。決戦を前に、余裕があったのはアイスランド人たちだった。歌声は軽やかだ。
試合の前もプレスルームは静かだった。ヘンドリクセン氏に聞いた。
――現在、オランダはグループAの3位にいる。これは良いポジション、それとも悪いポジション?
「悪いポジションだ。各グループの上位2チームは、本大会に出場となる。3位のチームは、確か一番成績のいいチームが出場で、その他はプレーオフに回ることになる。今日のアイスランド、6日のトルコと重要な2連戦だ」
88年の西ドイツ。84年大会への出場を逃していたオランダは、欧州の頂点に立った。決勝でソ連にマルコ・ファン・バステンがダレクトボレーを突き刺す。以来オランダは、事あるごとに“死の組”の立役者だった。このままでは、系譜が再び途絶えてしまう可能性がある。
――今日の勝利はマス…
「マストだ」
答えはすかさず返ってきた。