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Jリーグ 1か月前

「お前は今、始まったんだ」川崎フロンターレの大先輩が涙する土屋櫂大に声をかけた。残酷なデビュー戦のエピローグ【コラム】

シリーズ:コラム text by 菊地正典 photo by Getty Images

「未来のフロンターレのために」。赤く染まった目はしっかりと前を向いていた

 試合後に号泣するほどに強烈な精神的ダメージを受けたはずなのに、試合中のピッチではそれを見せない。

 3失点目の直後には武器の一つであるロングボールを前線に送った。結果として相手に弾かれたが、チームが再び相手を押し込む起点となった。

 そして、最終的にはCKから高井がヘディングシュートを決めたが、同様にヘディングに自信を持つ土屋も相手のマークを振り切り、高井がいなければ合わせられる位置に入っていた。短い時間ではあったが、土屋は同点に追いつくべく、チームメイトとともに最後まで必死に戦っていた。

「みんなの前で話しているときのあいつの雰囲気はどうでした?」

 話しながら後輩の様子が気になったのだろう。安藤が逆質問してきた。安藤はロッカールームを出て取材エリアに向かおうとする土屋にも声を掛けていた。

「これで終わりみたいな感覚になったかもしれないけど、お前は今、始まったんだから。一歩踏み出したんだから。堂々と言ってこい!」

 テレビの取材を受けている土屋はまだ質問者やカメラを正視することができず、ややうつむきながら話していた。ただ、先輩の激励に加え、カメラの前で話すうちに気持ちが整理できたのだろうか。ペン記者の取材エリアではまだ赤く染まっていた目を前に向け、質問にはっきりと答えていた。

「めちゃくちゃ悔しいですけど、今後の未来のフロンターレのために自分が成長していかなければ、引き分けに持ち込んでくれたみんな、今日のために準備してきたみんなに申し訳ないと思っています。チームに迷惑を掛けたと思っていますけど、これをプラスにしていければ自分の今後のサッカー人生にもつながると思います」

 土屋自身に後悔はあるはずだが、終わってしまったのだからポジティブに考えるほかない。神奈川県内でも最大のライバルといえるマリノス戦でプロデビューし、こんなに強烈な経験をできる選手なんてそうそういない。

「先は明るいんじゃないですか」

 安藤が最後に発した言葉は、土壇場で追いついたチームを指していた。ただ、それが土屋についての言及だったとしても、何ら違和感を覚えることはない。

(取材・文:菊地正典)

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