「自分のところに近づいてきて…」。キャプテンからのたった5文字の言葉
「アラーノは右利きで、カットインからのクロスがあるのもわかっていた。なので、僕はアラーノへパスを出した後にわざと縦のスペースへ走り込みました。アラーノの周りのスペースを空けるためだったし、そこまでの流れを含めて、すべてが自分の狙い通りの形でゴールまでもっていけたと思っています」
パスを返せと言わんばかりに右手で前を指し、完璧な囮と化してスプリントした山下に、ヴェルディの翁長聖だけでなく熊取谷一星もつられてしまう。完全にフリーとなったアラーノは余裕をもった体勢から、ファーサイドへ正確無比なクロスを供給。詰めてきたジェバリが頭で叩き込んで先制した。
「アウェイというだけでなく、メンバーも欠けている本当に難しい状況でしたけど、だからこそチームが沈まないように、初歩的なことですけど、みんなで常に声をかけあって戦っていました」
山下が振り返ったように、アビスパ福岡との第2節で負傷したディフェンスリーダーの中谷進之介だけでなく、ヴェルディ戦ではキャプテンの宇佐美貴史も欠場を強いられた。ダニエル・ポヤトス監督が「少し違和感がある」とだけ言及した宇佐美と、ヴェルディ戦の前日に山下は短い言葉をかわしている。
「自分のところに近づいてきて、みんなへの信頼を込めて『やってこい』と。それだけです。彼の悔しさといったものを感じましたし、だからこそ自分たちがやらなきゃいけなかった」
今シーズンにガンバから完全移籍でヴェルディへ加入した福田湧矢、期限付き移籍から完全移籍へと移行した山見大登が古巣との対戦へ向けて胸を躍らせていたのと同じく、山下にとってもヴェルディはプロの第一歩を踏み出した古巣だった。もっとも、特に意識はしていなかったと山下が続ける。