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あの日から262日。安井拓也は「こんなものじゃない」。FC町田ゼルビアで止まった時間が、ジェフ千葉で動き出す【コラム】

シリーズ:コラム text by 菊地正典 photo by Getty Images

この場面で安井? 接戦で投入された安井拓也

 長らく実戦から離れた選手が復帰するのは、試合の結果がある程度決まった試合終盤というのが相場だ。しかし小林監督は、自チームが相手に押し込まれながら1点のリードを守り切ろうとしているピッチに安井を送り込んだ。しかも、ボール奪取やセカンドボールの回収など守備に長け、小林監督自身も信頼を寄せる小林祐介がベンチにいたにもかかわらず。

 この場面で安井? 驚いたファン・サポーターも多かったかもしれない。9カ月ぶりの復帰戦が極度に緊迫感のある状況。勝敗に関わるミスをしてしまったら、立ち直れないかもしれない。頼むから何事もなく終わってくれ。そう思ったファン・サポーターや関係者もいたかもしれない。

 安井は違った。むしろ、その状況でも自分を選んでくれたことに胸を熱くした。

「8カ月プレーしていなかった試合でもありますし、加入して初めての試合でもあるので、リスクがある選択だったと思います。あの状況で僕を呼んでくれたということにすごく感じることがありました」

 その期待を絶対に裏切れない。絶対に勝ちきる。目の前の試合に集中していた。だからピッチに入った瞬間、試合中は復帰に関する感慨などなかった。

 味方がボールを奪った瞬間にすぐ失ってカウンターのカウンターでピンチになりそうな場面でボールを奪い返すこともあれば、セカンドボールの争いで恐れず体を投げ出す場面もあった。

「展開的にも僕たちは我慢の時間が続いていたので、セカンドボールであったり、前進させないことであったり、そういう部分が大事になってくるとは思っていたので、そのときに必要なことを考えながらプレーしていました」

 試合前から「すごく大きな一歩になる」と考えていた復帰を果たした。クラブ史上初の開幕3連勝、対山形7年ぶり白星と千葉にとって非常に大きな勝利に貢献した。9カ月ぶりの公式戦は楽しかった。復帰戦を無事に終えたこと、役割を果たしてチームが勝利したことに安堵もした。

 ただ、自分らしいプレーを出せたかと言われれば、そうではない。

「今日は自分自身のプレーとはならなかったです。僕自身、まだまだこんなものじゃないと思っています。大きな一歩でしたけど、まだ一歩なので。もっともっとチームに貢献できるように、明日からまたしっかりやっていきたいです」

 そう話す安井の表情は風間が撮影した写真に移る彼とはまるで別人であり、ピッチ上と同様だった。そして10分ほど前に潤んでいた目はもう、乾いていた。

(取材・文:菊地正典)
 

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【了】
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