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コラム 6日前

「明日の試合を中止にはできない」なぜ戦争下でもサッカーをやめないのか? 現役Jリーガーが感じたプレーする価値【コラム】

シリーズ:フットボール批評オンライン text by 岡田優希 photo by Getty Images

戦火の中でも「明日の試合を中止できない」理由

「選手たちは試合をして構わないのか?」


「戦争へ行く人たちもいる。私たちはサッカーの試合をしに行くことができる。行かなければならない。これが私たちの貢献の仕方だ。」(p280)

 このようにシャフタールの選手たち、そしてウクライナの国民は第一の「最も重要なもの」を100%確保する状況ではないにも関わらず、ドンバスから離れてでもプレーを続け、まさに流浪の道を歩んでいる。

 つまりそれは、シャフタールというクラブ、選手の存在が、ウクライナにとって命同様の価値があるからではないだろうか。

 シェルターが配備されたスタジアムでプレーを義務付けられ、空襲警報が鳴れば一目散に避難をしなければならない状況下でも、彼らはプレーを続けている。

 それが意味するのは、ウクライナ軍が軍事行動行うことと、シャフタールがプレーをし、UEFAチャンピオンズリーグで強豪チームと戦うことの重さが等しいということである。

「誰にもそれぞれ異なる人格がある。我々の大半はウクライナに家族があり、この状況について不安をいだいている。しかし、それでも試合が中止されることはない。来週何が起こるかわからないが、オレクサンドリーヤが今日の試合を取りやめたことは知っている。それは当然だろう。サッカーより大事なものがある時に、誰がサッカーのことを考えられるだろうか。だが我々は明日の試合を中止することはできない。ピッチに出なければならない。そこへ出て、我々がお互いに戦う姿を、ウクライナ国民のために戦う姿を見せなければならない。」(p279)

 これに対しJリーグでは、コロナ禍において安全が確認できるまでリーグを中断し、そこから定期的な検査の徹底と、観客動員のコントロールを経て、昨年ようやくその制限を解除した。

 まずは人命や社会への負担を考慮し、全ての安全が確保されてからサッカーを行うことができるというスタンスである。

 ここで考えたいことはどちらが良いという優劣ではなく、それぞれに歴史や文化、価値観があるということだ。

 近年では世界中の試合をリアルタイムや録画で、いつでもどこでも視聴することができる。

 ただし同じ画面で見るサッカーの試合でも、その背景は様々である。

 私は現役のJリーガーとして、世界一安心安全なリーグでプレーできることの幸せを改めて噛み締めている。

 同時に今も「流浪の英雄」として闘い続けるシャフタールに心から敬意を表すると共に、彼らの生き様、闘う様を見届けていきたい。

(文:岡田優希【奈良クラブ】)

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<書籍概要>

『流浪の英雄たち
シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』
アンディ・ブラッセル 著
高野 鉄平 訳
定価:2,420円(本体2,200円+税)

八年間で二つのホームを失ったウクライナ最強クラブの熱源

「東欧最強クラブ」と呼ばれて久しいウクライナのサッカークラブ、シャフタール・ドネツクは、2014年以来、ホームスタジアムでプレーしていない。同年4月にドンバス地方で戦闘が開始されると避難を余儀なくされ、22年2月にはロシア軍のウクライナ本格侵攻により再度の避難を強いられた。さらに主力選手の流出など、自らの姿を見つけだす必要に迫られる普通ではない状況の中、それでもシャフタールは普通にプレーし続けている。シャフタール関係者の膨大な証言を通して、知られざる流浪の英雄たちの戦いに光を当てる。

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【了】

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