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『流浪の英雄たち シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』は、2014年にホームスタジアムを失ったサッカークラブを追ったノンフィクションである。遠く離れた日本でプレーする岡田優希(奈良クラブ)が本書を読み、彼らにとってサッカーがどのような価値を持つのか考える。(文:岡田優希)
評者プロフィール
岡田優希(おかだ・ゆうき)
1996年5月13日生まれ、神奈川県出身。18歳まで川崎フロンターレの育成組織に所属し、同期の三好康児や板倉滉とプレー。早稲田大学を経て2019年にFC町田ゼルビアに加入して3シーズン在籍。その後はテゲバジャーロ宮崎、ギラヴァンツ北九州を経て、2024シーズンから奈良クラブでプレーする。フットボールチャンネルでは、サッカー本を読んで自身の経験を綴る書評を行っている。過去の記事はこちら。
<書籍概要>『流浪の英雄たち
シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』
アンディ・ブラッセル 著
高野 鉄平 訳
定価:2,420円(本体2,200円+税)
戦争に巻き込まれたサッカークラブの物語
「みんな爆発音で目を覚ました。」(p32)
日本で生活していると、ニュースから流れる世界で未だに続く戦争や悲惨な事件は、どこか遠くの出来事のように感じてしまう。
ましてや急に戦争が始まり、これだけインターネットが発達した中でも情報が得られず、突然故郷を失う経験は誰にもないだろう。
「ウクライナは2022年2月24日以来、戦争状態にあるというのが世界の見方だ。だが、シャフタールと繋がりのある誰かに訊ねてみれば、もっとはるかに前から戦争状態にあると答えることだろう。クラブが故郷の街ドネツクを離れたのは2014年春のことだ。」(p24)
「5月になる頃には、ドンバスの状況もクリミアとほぼ同じものになっていた。
ウクライナ南東部のドンバスはロシア国境に迫る面積45,000平方メートルの地域であり、ドネツクを事実上の首都としている。
ユーロマイダン後の不安定な情勢に乗じて、ロシアが資金を提供した分離主義者が暴力的にその支配権を奪い取った。クラブ、スタッフ、選手たちは大急ぎで荷物をまとめてドネツクを脱出。二度と帰還することはなく、シャフタールは現在のような流浪の道を歩むことになった。」(p32)
「最悪のケースより悪い」(p24)
「流浪の英雄たち〜シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない」(以下本書)は、そんな状況に巻き込まれたクラブ、そしてクラブに関わる人々の物語である。
今も実際に戦争の最中プレーを続け、クラブが前に進んでいる中発せられるリアルな声は、テレビやインターネットで目にするよりも、何倍もの緊張感と臨場感がある。
もしその場にいたとしたら彼らほど強く、逞しくあれるだろうか。