見失った自分らしさ…。湘南ベルマーレで直面した現実
[3-1-4-2]という布陣の[1]は、ピッチのちょうど真ん中のポジションで、すべての選手と関わらなければいけない。味方10人からパスを引き取り、ときには自ら運び、ときには長短のパスで散らしていく。どこにボールがあったとしても、常にボールを奪いにいける位置でもある。
湘南では常にチームが勝つためにどうすればいいかが求められてきた。田中はチームの中心であり、田中の一挙手一投足が勝敗に左右する。だからこそ、試合後に出てくる言葉の主語はほとんどがチームになっていた。
それゆえ、チームの状態が悪いときは、自分らしさを見失ったようなプレーをしていたこともあった。もちろんこれは田中個人だけの問題ではないが、アンカーとしてバランスを取ろうとするがあまり、自身の武器であるボールを奪いに行く積極性や、攻撃に絡んでいく迫力に欠ける試合もあった。
それでも、昨季の後半戦は「これが田中聡だ」というプレーを取り戻していた。昨年10月24日のアディショナルタイム弾はまさに田中の良さが出た場面と言えるだろう。アンカーというポジションを捨てた田中は、バイタルエリアでパスを受けると、ペナルティーエリアに侵入して思い切りよく利き足を振り抜いてゴールに突き刺した。
鶏が先か、卵が先かは別にして、田中らしさが出せれば勝利に近づくと、終盤戦の湘南を見ていて感じられた。
湘南にいれば、チームの中心として今季も来季も活躍できただろう。そうしていれば、再び海外でプレーするチャンスも訪れたはずだ。しかし、田中の考えは違った。