「僕から個々に話さなきゃいけない選手もいる」
「とにかく冷静にワンタッチ目を置こう、と。最初はダイレクトで蹴ろうと思ったんですけど……」
ワンタッチから再び左足を駆使した一撃が、松本の右側の空間を射抜いた。狂喜乱舞した矢先にオフサイドフラッグがあがり、その場に突っ伏した武藤は約3分後に再び吠えた。VARによる長い映像チェックの末にオフサイドが取り消され、同点ゴールが認められたときには武藤は上半身裸の状態になっていた。
「僕自身が正直、オフサイドだと思ってあきらめていたところからのゴールだったので、感情が爆発してしまった感じです。誰一人あきらめていなかった執念深さが、あの1点につながりました」
御厨主審からイエローカードを提示された、ユニフォームを脱ぐゴールセレブレーションに思わず苦笑いした武藤は、一方で試合後のチームの雰囲気を「よくはなかったですね」と明かしている。
「勝ち点1で僕たちが納得しているか、といえば絶対にそうではない。しっかり反省して、僕から個々に話さなきゃいけない選手もいる。ここであやふやにしてしまったら、成長にもつながらない。そこはタカさん(吉田孝行監督)も絶対にあやふやにしないし、もう一度、厳しい雰囲気のなかで次の1週間を過ごしたい」
同時間帯で京都サンガF.C.と対戦していたFC町田ゼルビアが勝利し、翌12月1日にはサンフレッチェ広島が北海道コンサドーレ札幌に大勝して連敗を3で止めた。3位の町田に勝ち点3ポイント差、2位の広島に同1ポイント差をつける首位で最終節を迎える神戸にとって、武藤の同点弾の価値も輝きを増してくる。
「町田も広島もいる状況で、勝ち点0に終わればどれだけ不利になるのかも、勝ち点1で優勝を自力で決められる形に持ち込めるのもわかっていた。次節、全員が一丸となって圧倒して決めたい。僕自身はどれだけ疲労が残っていても、どれだけ痛みがあっても、チームの勝利のためにすべてを捧げたい」
ホームのノエビアスタジアム神戸に湘南ベルマーレを迎える、8日の最終節で神戸が勝てば広島と町田の結果に関係なく、延べ8チーム目のJ1リーグ連覇が決まる。闘志を前面に押し出すストライカーと、チームの成長のために心を鬼にして苦言を呈する鬼軍曹。2つの顔を同居させながら武藤は闘い続ける。
(取材・文:藤江直人)
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