「何で僕を5番目に変えたんですか」
「ポジティブな性格なので、シゲさん(長谷部監督)なりの、自分はもっとできる、といった励ましの言葉だったといまでは解釈しています。実際にその後のマリノス戦でも点を取れたので感謝しています」
目の前にあるすべてを、自分にとっていい方向に考える。山岸の究極のプラス思考は、新潟との雌雄を決するルヴァンカップ決勝のPK戦でもフル稼働していた。新潟の2番手、長倉幹樹がただ一人だけ外し、名古屋は4人目までの全員が成功させる展開で、後蹴りの名古屋の5人目、山岸の出番が回ってきた。
緊張していない、といえば嘘になる。それでもゴールの後方で大声援を送り続ける、名古屋のファン・サポーターの存在が勇気を与えてくれた。何よりも昨年のPK失敗を、ここでもプラスにとらえていた。
「昨シーズンの決勝では、同じサイドで西川選手にPKをキャッチされていた。そうした因縁があったので、個人のストーリー的にはここで決めて優勝すれば、というのがありました」
昨シーズンと変えている部分もあった。PKを蹴るまでの過程を変えたと山岸は笑う。
「昨シーズンまでとは、入り方をちょっとだけ変えています。以前も最初からボールに対して斜めに入り、そこからまっすぐに入って蹴っていたんですけど、いまは左足で二度踏んでからまずまっすぐに入る形で、キーパーのアングルをちょっと変えています。実際にうまく逆を取れてよかったと思っています」
キャッチされた昨シーズンとは逆、ゴールの右隅を狙った一撃が、新潟のキーパー阿部航斗がダイブした逆を突いてネットを揺らす。歴代最多の6万25117人の大観衆の雄叫びが降り注ぐピッチで、3大会ぶり2度目の優勝を決めた喜びをチーム全員で分かち合いながら山岸は指揮官に尋ねた。
「何で僕を5番目に変えたんですか」
返ってきた長谷川監督の言葉に、日々の練習を見てくれていたんだと山岸は胸を打たれた。