初出場を終えた沖に指揮官がかけた言葉
「ワールドカップに出たゴールキーパーが身近にいて、実績も違いますし、学ぶところが多いですし、もちろん尊重はしますけど、ただ尊重しすぎるのも難しいところがある。なので、自分のなかで学ぶところは学びつつ、かつ自分のもっている武器を組み合わせる作業が、いまの自分にとって大事だと思って日々のトレーニングから取り組んできました。
Jリーグで長く試合に出られていなかったし、その間に年齢を重ねているところもあったので、ただ単に試合に出るだけではなくて、とにかく自分を表現しよう、と」
後がない栃木の激しいプレスの前に、得意とするキックがなかなか味方に通らない。それでも周囲を鼓舞し、指示を出す声を絞り出し続けた。J1で活躍したプライドもすべてかなぐり捨て、初めてとなるJ2の戦いに身を投じて約10カ月。最後尾で安心感をもたらして沖へ、秋葉忠宏監督も賛辞を惜しまなかった。
「なかなかチャンスが訪れないなかでも、必死に取り組む姿を見てきたので安心して任せられた。誰が出てもいいプレーができる準備を選手がしてきた証であり、それがわれわれの選手層の厚さでもある。ただ単に人数がいるのではなく、試合に出る、出ないに関わらずやり続ける姿勢があってこそだと思っている」
長丁場のシーズンが残り3試合となって、不意に訪れた初出場のチャンス。無失点での勝利という結果で応え、昨シーズンは最後の最後に逃したJ1昇格を決めた瞬間を、ピッチのうえで味わえた。
「僕は1試合目の出場だし、チームのみんながここまで勝ち点を積み重ねてきたからこその(昇格決定という)結果なので。もちろん勝った喜びはありますけど、まだシーズンは終わっていない。残り2試合で昇格の次は優勝を目指していくし、その次に来シーズンがある。気を抜かずにしっかり取り組んでいきたい」
気持ちを引き締めた沖は、栃木戦を前に権田から託されたメッセージは、との問いに「そこは言いません」と急に口を閉じた。それでも切磋琢磨してきた35歳のライバルに捧げる熱い思いは、昇格決定後に重ね着していた、背番号「57」が記された権田のユニフォームに凝縮されていた。
(取材・文:藤江直人)
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