アルテタ監督の中に生まれた新たな選択肢
リバプール戦でベストなメンバーが揃った際とは異なる起用法となったのが、トーマス・パーティとベン・ホワイト、デクラン・ライスの3名だ。
彼らはこれまでの試合とは異なる役割を任された中でも合格点以上の出来をみせており、中でも本職が中盤ながら右サイドバック(SB)で起用されたトーマスはリバプール戦のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれても不思議ではないほど素晴らしいパフォーマンスだった。
トーマスがこの試合でマッチアップしたのは、開幕から絶好調のルイス・ディアスだ。そんな相手に対してアルテタ監督が、第7節サウサンプトン戦に続いて彼を右SBで先発起用したのは、デュエルでの攻防に勝つためだろう。
ベンチにはオレクサンドル・ジンチェンコが入っており、本職での起用を優先するのであれば、ウクライナ代表DFを左SBで起用し、ティンバーを右SBで起用することもできた。ただ、サラー相手にジンチェンコが後手を踏むのは予想できた事態で、それよりもトーマスの方がデュエルでの勝率が高いと踏んだと予想する。
その期待に応えるようにガーナ代表MFはルイス・ディアス相手に奮闘する。51分のように突破を許してしまったこともあったが、対人戦と判断の質が高く、本職が中盤の選手にありがちな最終ラインの上げ下げも含めて、ほぼ完ぺきな振る舞いだった。
実際にデュエルのスタッツを見ると、地上戦が16戦9勝、空中戦が5戦4勝と、対峙したルイス・ディアスの地上戦(17戦6勝)と空中戦(3戦1勝)を大きく上回っている。
怪我人続出が結果的にトーマスの右SBのテストとなり、その結果がポジティブなものだったことを踏まえると、怪我人が戻った後であってもオプションの一つになり続けるだろう。仮にガブリエウが深刻な怪我だった場合は、ホワイトとサリバがCBの一番手となり、引き続きトーマスが右SBで起用されるかもしれない。
昨シーズンは怪我の影響で、公式戦52試合で883分しか出場することができずにチームメイトへと負担をかけたトーマスが、今度は自らの力で周りを助ける出番が訪れた。
(文:安洋一郎)