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Jリーグ 1か月前

「まだオニさんと一緒に…」川崎フロンターレ、佐々木旭は恩師の退任に何を思う。「自分たちの…」新たな決意と覚悟【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

「まだオニさんと一緒にできるので…」

 試合中にポジションを変えたケースも、リーグ戦だけで実に16回を数える。横浜F・マリノスとの第6節では左SBから右SB、さらに3バックにスイッチしてからは右ウイングバックでプレー。FC町田ゼルビアとの第27節では、パリ五輪に出場し、9月からは日本代表にも名を連ねるDF高井幸大の負傷退場に伴い、佐々木は左CBから右CBへポジションを変更。試合後にはこう語っている。

「今シーズンはいろいろなポジションでプレーしているので、見える景色はまったく違いますけど、変わったからといってプレーにあまり影響はないですね。自分の財産といったものが、ここにきて活きていると思う」

 左CBで先発した浦和レッズとの第11節では、自陣の中央から長い距離をドリブルで駆けあがり、ペナルティーエリアの外からそのまま決勝ゴールを決める離れ技を演じている。SBでプレーした名残ともいえる積極的な攻撃参加に、鬼木監督も試合後の公式会見で言葉を弾ませている。

「僕自身、CBがドリブルで進んでいくプレーが大好きなんです」

 一転してガンバ戦では、試合の最終盤を除いて、佐々木は攻撃参加を自重している。

「今日のゲームに限らず、彼の持ち出しはずっと効果的だと思っています。個人的には、行けるのであれば本当にゴール前までドリブルしてもいいのかな、そういう方が面白いんだろうなと思っている。ただ、相手が一発のカウンターを狙っていました。特に前半はリスク管理のところで少し甘さがあって、そこへの対応の話をしたのも関係しているかもしれない。その意味で、チームのバランスを取っていたと思う」

 佐々木のプレーにこう言及した鬼木監督に思いをシンクロさせるかのように、佐々木も「試合への入り方がもったいなかった」と、右サイドの裏を突かれて喫した失点を何よりも悔やんでいる。

「立ち上がりは集中しようと声をかけ合っていたし、ミドルブロックを作るのか、前からいくのかをはっきりしよう、とも話していた。そのなかでミドルブロックを作りながらも、簡単に裏を取られて失点したのは反省しなければいけない。失点する前から何度かピンチがあったし、修正が必要だと思う」

 一時代を築いた名将の退任発表後に、初めて臨んだ試合は無念のドローに終わった。しかし、今シーズンの戦いはまだ続く。消化数がひとつ少ないリーグ戦はあと5試合。秋春制で行われるAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のリーグステージも、年内に4試合が組まれている。

 シーズンをフル稼働する難しさも感じながら、佐々木は決意を新たにしている。

「まだオニさんと一緒にできるので、少しでも多くのことを学んで、成長した姿を見せたい。自分のなかでここ最近、パフォーマンスが落ちてきた、といった自覚のようなものがあるので。ここから連戦になっていきますけど、このまま怪我をせずに何とか最後までやり切れたらと思っています」

 特に11勝11分け11敗とまったくの五分となったリーグ戦へ、鬼木監督は「中位に甘んじていてはダメだ」とガンバ戦後に檄を飛ばしている。少しでも“らしさ”を発揮し、プライドを取り戻すきっかけとともに、指揮官を笑顔で送り出すために。無冠が決まった川崎に、新たなモチベーションが生まれた。

(取材・文:藤江直人)

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