谷口の頭をよぎった一瞬の迷いとは
「決して難しいボールではなかった。ただ、あの瞬間はマチ(町田)が先に触るかもしれないとか、その場合はどのように対応すればいいのかとか、いろいろなことを考えていたなかで、ちょっと出足が遅れてしまった。シンプルに僕が一歩でもいいから下がって、左足で普通にクリアしていれば問題はなかった。僕のポジショニングミスというか、もっと警戒して準備しておかなければいけないシーンでした」
それまで放ったシュートがわずか1本、それも開始7分の枠外のそれだけに抑えられていたオーストラリアの選手たちが狂喜乱舞する声が耳に届いてくる。谷口は自軍のゴール前で仰向けに倒れ込み、埼玉スタジアムの上に広がる夜空を見つめながら、ショックを覆い隠すように両手で顔を覆った。
次の瞬間、彩艶が「大丈夫、大丈夫」とチームを鼓舞する声を響かせた。右CB板倉滉が、立ち上がろうと手を差し伸べてくる。まだ試合は終わっていないと、谷口も自らに言い聞かせた。
「無失点のまま僕たちが試合を進めていけば、また違った展開になっていた。正直にいえばつらかったし、ショックも大きかった。それでも絶対に負けちゃいけないと思ったし、ここで自分が崩れたらオーストラリアの思うつぼというか、これ以上はゲームを壊したくないという思いで自分を奮い立たせました」
熊本県の強豪・大津高等学校から筑波大学をへて、川崎フロンターレで2014年から紡いできたプロのキャリアで、目を背けたくなるような非情な現実を目の当たりにしたのは今回が初めてではない。
まだ記憶に新しい今年8月11日。カタールのアル・ラーヤンをへて、33歳になった直後の7月に加入した新天地シント=トロイデンで、最終ラインを束ねる役割をも担って初めて先発したロイヤル・アントワープとのベルギーリーグ第3節で、大量6失点で喫した惨敗を谷口はこう受け止めていた。