次節勝利で昇格も「喜べるような試合ではない」
「チームのために何をするべきか、どういうプレーをするべきか、どういう振る舞いをするべきかを熟知した素晴らしい選手。どのタイミングでどこのポジションで出ようと、スタメンだろうとサブだろうと、監督にとってこんなに心強い選手はいない。
彼の歩んできたキャリア、人間性、インテリジェンスが反映されているメンタリティーが優勝と昇格に絶対に必要だし、彼の背中を見て多くの若手選手が育っていってほしい」
話を水戸戦に戻せば、自らのゴールで追いつき、勝ち点1を手にした試合後の矢島に笑顔はなかった。
「前半の試合展開を見たら、引き分けは大きいといえば大きいけど、残り試合で優勝も狙っていくのならば悔しいというか、最低限、勝ち点1を取ったと喜べるような試合ではないと思う」
視線は9月以降の6試合で、5度も先制されている試合展開に向けられている。矢島が続ける。
「先制点はもちろん取られるより取った方がいいけど、チームとして今シーズンは先制点を取られると、そのままズルズルと、なすすべなく大差で負けた時期もあった。当時に比べたら同点までもっていけたのはよかったけど、残り5試合でそういった課題の残るような試合をしていても……という感じなので」
水戸に勝てば3位のV・ファーレン長崎の結果次第で、J1昇格が決まる可能性もあった状況で引き分けた清水は、キックオフ前で2位だった横浜FCに抜かれて2位へ順位を落とした。
もっとも、残り4試合で長崎との勝ち点差は10ポイント。ホームのIAIスタジアム日本平に、7位のモンテディオ山形を迎える20日の次節で勝利すれば、無条件でJ1昇格が決まる状況を手繰り寄せた。
「正直に言うと、自分一人でチームをJ1へ連れていくとか、そういった力はない。その意味でもチーム全員が一体感をもって、ホームでしっかりと勝って、ファン・サポーターとともにJ1昇格を決めたい」
先制を許す展開が続きながらも、清水は6勝3分けと9戦連続無敗を継続している。最終盤で2つの黒星も喫している昨シーズンに比べて、秋葉監督が追い求めてきた勝負強さが宿りつつある証といっていい。
チームへ新たな力を加えた一人である矢島は、ここまでの起用法を振り返ればまずはベンチで山形戦の展開を注視し、交代でピッチに立った場合に託される役割をシミュレーションしながら、心の準備を進めていく。
(取材・文:藤江直人)