「外循環」しか選択肢がなかったパリ・サンジェルマン
一方のパリ・サンジェルマンの最終ラインからのビルドアップは、結果として「外循環」しか選択肢がなくなってしまった。今季のリーグ開幕戦でゴンサロ・ラモスが負傷してから最前線にはマルコ・アセンシオやイ・ガンインといった本職ストライカーではない選手を起用しており、前線で縦パスを収めることができるタイプの選手がいないのは痛手だった。
また中盤のビティーニャが味方CBに寄ってパスを受けようとするなど、相手のファーストプレスの前でボールを触ることで、[4-4-2]のコンパクトな陣形で連動したプレスを仕掛けるアーセナル側からすれば中盤へのパスコースを簡単に消すことができた。
となれば、パリ・サンジェルマンの最終ラインの選手からすると、パスの受け手の選択肢が中央になく、結果としてアーセナルの強度の高い中盤を避けたサイド攻撃が主流となる。サイド攻撃が完全に機能していなかったわけではなく、25分にジョアン・ネベスが左サイドに流れてから裏を狙った攻撃など、随所にアーセナル守備陣を脅かす攻撃もあった。
ただ、こうしたサイド攻撃が効率的かどうかと問われれば難しいだろう。帰陣が早い上に最終ラインと中盤の間のスペースもないアーセナル守備陣相手に決定的なクロスを通すことやフィニッシュに持ち込むことは簡単ではなく、結果的にボックス外や角度のない位置など、ゴールを生み出すには難しい場所からのフィニッシュに終始した。
その結果が、10本のシュートでゴール期待値が0.27しかなかった理由である。
ただ、忘れてはならないのが、今シーズンのパリ・サンジェルマンはリーグ戦6試合で20ゴールを決めているチームであることだ。そんな相手に対してほとんど決定機を作らせなかったアーセナルの守備戦術の熟練度は日増しに高まっており、勝負どころさえ乗り越えることができれば、今シーズンこそタイトルを狙えるチームになっているのではないだろうか。
(文:安洋一郎)