叶わなかったトップチーム昇格
中学年代から清水のアカデミーで育った西澤は、筑波大学をへて2019シーズンに清水へ加入した。トップチームへの昇格がかなわなかった高校卒業時。クラブ側から「大学経由で戻ってきた前例がない」と知らされた西澤は、清水への愛をさらに膨らませながら、自分が第1号になると心に決めて目標を成就させた。
清水の一員になって6シーズン目。今月6日に28歳になった西澤が抱くチーム愛と、何よりも歯を食いしばってリハビリに取り組み、必死に復帰を目指してきた姿を秋葉監督は間近で見守ってきた。
先発に抜擢した藤枝戦で、大活躍を演じただけではない。足がつるまで敵地のピッチを走り回り、万雷の拍手を浴びながら73分にベンチへ下がってきた西澤に、秋葉監督は試合中から胸を打たれていた。
終わったばかりの90分の総括からはじまる公式会見。質疑応答に移った1問目で、西澤への評価を問われた指揮官は「僕なんかよりもはるかに長くこのクラブを見て育ってきた選手、今日でいえば健太(西澤)や航也(北川)らがそうですけど、彼らは絶対にやってくれると信じていました」と切り出した。
このあたりから心なしか声がうわずりはじめ、必死に言葉を続けようとする跡が伝わってくる。
「そのなかでいろいろなタスクがあって、それもかなりインテリジェンスを要するタスクのなかで、健太が達成した役割、タスクはもうとんでもないものでした。でも、それらをやりながらも点を取る、アシストするという彼が本来もっている強みも見せる、というのは普通じゃできませんから……」
ここで感情が限界まで高ぶり、冒頭で記したように号泣しながら声を途切れさせ、照れくささを覆い隠すように「涙もろく――」とまったく異なる言葉を紡いだ。苦笑とともに気持ちを落ち着かせた指揮官は、藤枝戦ではベンチ入りしていない下部組織出身者の名前をあげながら、質問に対する答えをまとめている。