黒田剛監督からのダメ出し「あいつはそれに対して…」
「プロの世界で何年プレーをしてきたとか、訳のわからないプライドは町田ではいらない。優勝を目標に掲げて日々積み重ねてきたものがなければ、それはキャリアとは呼べない。その意味で、自分のなかではいっさい忖度しないと最初から言ってきた。外国から来ようが、何歳であろうが、ワールドカップに出ていようが、ダメなものはダメと遠慮なく言う。町田が目指す基準に達していなければ、試合では使わないと」
昌子の場合に当てはめれば、町田の一員になった時点で31歳だった年齢も、2018年のロシアワールドカップで獅子奮迅の活躍を演じた経験も、その両方だけでは町田の最終ラインで起用される理由にはならないと言い渡された。真正面からダメ出しされた昌子の反応を、黒田監督は次のように振り返っている。
「でも、あいつはそれに対していっさい反発しなかった。わかりました、やります、絶対にやりますと。ダメならとことん話し合えばいいだけであって、そこに気を遣う必要性もない。話せば絶対に納得し合えるし、変な距離感が生まれることもない。たとえベンチに座っている状況が続いたとしても、それでもチームのために戦い続けるのは、われわれ町田のスタンダードにもなっているので」
広島戦に続く川崎フロンターレ戦で、谷の一発退場に伴って3バックにスイッチした74分から途中出場した昌子は、ベンチに座り続けたヴィッセル神戸戦をへて、FC東京との第9節から先発を射止め続けている。そして、黒田イズムを体現してきた昌子の視線は、すでに28日の次節へと向けられている。
広島のホーム、エディオンピースウイング広島に乗り込む運命の直接対決を、昌子は「間違いなく今シーズンで最大のターニングポイントになる」とモチベーションを高めながらこう語る。
「どちらかが1位なのかは別として、広島さんとはおそらく1位と2位で勝負すると思う。そもそも自然とモチベーションがあがってこないとおかしいというか、わいてこないようであれば、あるいは萎縮するようであれば、僕たちは優勝するようなチームではない、ということ。
アウェイに乗り込む僕たちにとっては、生半可な気持ちでは絶対に勝てない。ましてや勝ちたかった試合で引き分けた直後になるので、次こそは絶対、と全員が思わなければいけない。チームとしていい時間をすごして、闘志をむき出しにして臨みたい」
自分自身の気持ちのもちようにも、昌子は「もちろんプレッシャーはあります」と素直に打ち明ける。
「ただ極力それを見せないように努力はしています。自分があたふたするようでは、チームもあたふたしてしまうと思っているので。その意味でも、自分のなかでうまく消化できているのかな、と」
22日にマリノスと対戦する広島、さらにアルビレックス新潟と対戦する3位の神戸の結果次第で順位に流動的な部分があるものの、それでも現時点での上位3強による最後の直接対決は、今シーズンの覇権の行方を大きく左右する。前売り段階でチケットが完売した天王山は、19時のキックオフを静かに待っている。
(取材・文:藤江直人)