欧州で「そこは研ぎ澄まされたところ」
【写真:Getty Images】
「(欧州での3年間では)結果を出すっていう部分はすごく成長したと感じます。やっぱり“生きるか死ぬかの状況”でプレーして、やっぱりそこは研ぎ澄まされたところ。続けてやっていきたいですし、ゴールも取れるように毎試合毎試合、やっていければいいかなと思います」と川辺は含みを持たせた言い回しをしていたが、目に見える結果次第で自身の身の振り方が激変するという厳しさを欧州で痛感したのではないか。
その厳しさを広島に還元すべく今、目の色を変えて戦っているはず。ギラギラした野心と高い意識がこの日の2点目に色濃く表れたと言っていい。
川辺のアシストから松本が奪ったゴールで2−1とリードして突入した後半。広島は主導権を握り続け、着実に勝利に近づいているように見受けられた。だが、鹿島が途中から広島対策の3バックにシフトしたことで、攻撃の迫力が低下し始める。徐々に相手のカウンターを食らい始め、82分には17歳の新星・徳田誉に同点弾を浴びてしまった。
結局、終わってみれば2−2のドロー。勝ち点3があと一歩のところでこぼれ落ちた広島はリーグ7連勝でストップ。わずか1試合で首位陥落を強いられた。
「最近の試合は特に70分以降の失点が多いんで、出ている選手でどうゲームコントロールするか、どういう試合にしなきゃいけないっていうのをもう少し詰めていかなきゃいけないなと。僕らが2−1で勝ってたのは事実ですし、それを勝ち切らなきゃなかなか優勝というのは難しいかなと思います」
徳田の2点目が生まれる直前にベンチに退き、戦況を見守っていた川辺は神妙な面持ちで語っていた。ここからAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2がスタートする中、最後まで集中力を維持していくことは、彼らにとって大きな課題なのは間違いない。
最後の最後で町田を捉え、悲願のタイトルを奪うためにも、今後は1つの取りこぼしも許されない。そこは川辺も脳裏に刻んでいる点。欧州での数々の修羅場経験を糧に、今夏加入組のパシエンシア、トルガイ・アルスランとともに「広島を勝たせる選手」になっていく必要がある。
「出てる選手だけじゃなくて、ベンチ・ベンチ外含めていい選手多いんで、チームの総合力というのが残りのリーグ戦、ACL含め、重要な部分になってくると思います」と背番号66は改めて気合を入れた。
広島で育ち、戻ってきた男がチーム全体を鼓舞し、奮い立たせ、ギアを引き上げ、救世主になってくれれば理想的。今季終盤のキーマンは紛れもなく川辺だ。チームの成否を左右するMFのパフォーマンスから目が離せない。
(取材・文:元川悦子)