押しては引き、引いては押す。大島僚太が意識する塩梅
「いや、そういうわけではないですけど。ただ、あの位置に泰斗(脇坂)が入ってきてくれれば、という場面でしたし、泰斗もおそらく隙間は見えていたと思うので。そんな感じでしたね」
昨年7月8日の横浜FC戦で負傷した大島は、6月26日の湘南ベルマーレ戦で実に354日ぶりに戦列へ戻ってきた。当初は右下腿三頭筋の肉離れと診断された右脚の怪我は、手術こそ受けなかったものの、その後も再発や別の箇所の負傷を引き起こす負の連鎖を招き続けた。
「プレーができない状況を含めて、本当に長かったりもしていたと思いますけど……」
ピッチから遠ざかってきた日々をこう振り返った大島は、特に今シーズンの序盤で深刻な不振に陥ったチーム、そしてチームメイトたちを外から見ながら、復帰を果たしたときに自らに課すプレーを思い描いてきた。弾き出された結論は「決して欲を出しすぎずに、いいバランスでプレーする」だった。
欲を出さない、イコール、怪我の再発を恐れて無理をしない、というわけではない。実際に復帰して出場時間を増やしながら、大島は「なかなか言葉にしづらい部分ですけど……」と前置きしたうえで、ボランチとして攻撃を差配するポイントを「塩梅のところを意識しています」と語っている。
押しては引き、引いては押す。料理の味加減を調える意味でよく用いられる「塩梅」のバランスを、この日はより「押す」方へ意図的に傾かせた。対戦相手の鳥栖から今夏に加入した新戦力で、豊富な運動量と巧みなポジショニングを武器とする河原創の後方支援を受けて、鳥栖ゴールに近い位置取りを多くした。
たとえば開始11分。右サイドのDFファンウェルメスケルケン際から河原、家長をへてボールを預けられた大島は、自身の左側へ絞ってきた左サイドバックの橘田健人へパス。トラップからボールを落ち着かせた橘田が右足を振り抜き、20メートルを超えるミドルシュートを豪快に突き刺して先制した。
「事前のスカウティングもあって、逆サイドにボールがあるときは自分か大弥(遠野)のどちらかが入っていく動きを意識していた。あの場面はいいタイミングで入っていけたし、けっこう距離があったので、コースを狙うというよりは思い切り蹴ることだけを考えていた。運よく入ってくれたと思う」
先制点を奪ったシーンを振り返る橘田に、アシストがついた大島もこう続けている。