川崎フロンターレの「全員がわかり合えているような部分」
「僚太くんからパスがきたタイミングで、新(山田)とアキさん(家長昭博)も呼応するように動き出してくれていた。ただ、新はつぶれてくれていたので、そこへパスを出すのはちょっと難しいと思っていたなかで、あとはアキさんの利き足に届ける、ということだけを意識してパスを出しました」
大島からパスを受けた脇坂が素早く反転し、フリーの状態で左足からボールを折り返す。このとき、山田は鳥栖のDFキム・テヒョンを背負い、ゴール中央にスペースを生じさせる黒子に徹していた。
そのスペースへ、今度は家長が右サイドから走り込んでくる。それまでDF楢原慶輝の背後にいた38歳のベテランは一気にその眼前に飛び出し、利き足の左足をヒットさせてゴールネットを揺らした。虚を突かれ、慌ててブロックに飛び込むも届かなかった楢原は、呆然とその場に座り込むしかなかった。
三浦が倒されてから家長の今シーズン6ゴール目が決まるまで、先述したように5秒もかかっていない。最終的にフィニッシュ役を担った家長は、淡々とした口調で自身のゴールを振り返っている。
「うまくリスタートしてくれたので、僕は中央で待っているだけでした」
アシストがついた脇坂は、一瞬の「ひょっこり」を見逃さなかった大島の戦術眼や抜け目なさ、センスの高さにあらためて脱帽しながら、山田や家長らのチームメイト、そしてスタッフへの感謝も忘れなかった。
「あそこで(パスが)来ないと、ただの……何て言うんだろう、ただの無駄な動きになってしまうところを、動いた瞬間に本当に最高のボールを届けてくれる。かつ、それを見越して相手ゴール前でみんなが走り出してくれる。相手を分析してくれたスタッフと、得点に関わった選手たちの意思疎通というか、全員がわかり合えているような部分を出せたんじゃないかなと思うし、そこは本当によかったと思っています」
そして、スイッチを入れた大島は、家長の姿まで見えていたのか、と問われて思わず苦笑している。