「これもサッカーですよね」雨中での死闘の価値
「チームとしてすごく苦しい時間帯だったので、そこでできたことと言えばボールホルダーへのマーキングを確定させることと、相手選手に強くいくこと。守備の対応に関しては、僕かスギ(杉岡)が…スギは自覚しているのであえて言いますけど、スギはあれを『止められる』と思っていたはずなので」
もうひとつの初体験は後半アディショナルタイムの98分。ラストワンプレーで飛び出した。
中山からバックパスを受けた谷が前線へロングボールを送る。ターゲットになったオーストラリア代表FWミッチェル・デュークがDF佐藤瑶大に競り勝ち、パスを受けたFW藤本一輝が左サイドから放ったグラウンダーのクロスを、真ん中へ飛び込んできたFWエリキが左足で押し込んだ。
直後に試合終了を告げる主審の笛が響く。劇的な展開でもぎ取った今シーズン7度目の引き分けは、負けていた状況から土壇場で勝ち点1を手にした点で、それまでのドローとは内容がまったく異なっていた。昌子も「最後の最後に追いつく、という試合はなかった」と雨中で繰り広げられた死闘の価値をこう語る。
「最後に勝ち越した試合はありましたけど、引き分けたのは初めてですよね。僕は引き分けでいい試合はもうないと思っている。もうそういった時期じゃない。引き分けてもいい試合は、負けている試合を追いついたときだけで、同点の試合は絶対に勝ち越さないといけないし、勝っている試合は絶対に勝ち切らないといけない。決定機の多さを含めて、今日の内容を見たら正直、絶対に僕らのゲームだったと思いますけど、これもサッカーですよね。あの時間帯に勝ち越された今日に関しては、その意味で最初の形が当てはまる」
直前の95分に一時は敗戦を覚悟するシーンが訪れている。町田のコーナーキックのこぼれ球を拾った松尾が自陣からカウンターを発動させ、そのまま町田ゴールを陥れた。試合を決定づけた、と誰もが思った3点目は、逆サイドをフォローしてきたFW二田理央にファウルがあったとして取り消された。
その瞬間、昌子の脳裏には「最後、一回あるかも」と同点になる展開がひらめいていた。