それぞれの長所と短所
多くのチームでは、先発出場することはそのポジションにおいてチーム内で最も優れていることを示すことになる。しかし、アーセナルの左ウイングにおいては話は別だ。ポジションを争うトロサールとマルティネッリは全く別のタイプの選手であり、それぞれの長所と短所も大きく異なる。
まずはそれぞれの長所を確認していこう。はじめにトロサールから。ポイントは大きく分けて以下の三点である。
(1)決定力が非常に高い(最終局面での判断に迷いと間違いが少ない)
(2)状況に応じて中へ絞り、一瞬のプレーでゴールを奪う
(3)オフ・ザ・ボールの動きの質が高い
29歳のベルギー代表FWは純粋なウインガーではないが、チーム随一のフィニッシャーである。昨季はリーグ戦の平均出場時間が48分にとどまったが、限られた出場時間の中で12ゴール1アシストを記録。その『ゴール期待値(xG)』は7.9となっており、トロサールは質の高いシュートで機械の予想を大幅に上回る活躍を残したことになる。
(1)から(3)まですべてに共通するのは、トロサールが「ボールを受ける準備」がずば抜けてうまいことだ。味方からパスを受けるときも、味方のシュートのこぼれ球を拾うときも、同選手は瞬時に適切なポジションを取って万全の準備を整えている。このため、ボールを持った時点で複数の選択肢が残されており、彼の球離れの良さやシュートの質の高さ、チャンスメイク能力が光る。
続いてマルティネッリの長所について簡単に整理する。昨季、今季と左ウイングで先発起用されることの多いブラジル代表の強みは以下の3つである。
(1)スピードを生かしたドリブル
(2)サイドからの「量」で圧倒する積極的な仕掛け
(3)献身的なプレスバック
アタッキングサードにおける柔軟なプレーが魅力的なトロサールに対して、マルティネッリには抜群の機動力がある。大外からスピードを生かして積極的に仕掛け、相手を翻弄できるのはトロサールにはない強みだ。また、その機動力は守備にも力を発揮しており、ネガティブトランジションの際には全力で自陣に戻り、サイドバック(SB)の選手との連係プレーでボールを奪う。
一方で、プレースタイルが異なる彼らの弱点は、お互いが強みとするプレーである。トロサールはスピードを活かしたプレーはあまり得意ではなく、走力や機動力で相手を困らせるプレーは少ない。逆にマルティネッリのオフ・ザ・ボールの動きはあまり効果的なものとは言い難く、しばしば相手に対応されて消えてしまう時間帯がある。
こうした長所・短所を考慮すると、ブライトン戦ではマルティネッリを先発させた方が良かったのではないだろうか。ガナーズの左ウイングと対峙したブライトンの右SBはジョエル・フェルトマンだった。フェルトマンはセンターバックとしてもプレー可能なほど安定した守備能力が魅力的な選手であるが、SBとしてはスピードに不安が残る。そのため同選手にとって快速ドリブラーは難敵であり、マルティネッリの方がより脅威として振舞えていた可能性が高い。
ブライトン戦に限らずマルティネッリを先発出場させた方が、トロサールが輝く場面は多くなるはずだ。さらに、アーセナルの左サイドが慢性的に抱える問題がマルティネッリの先発起用を後押しする。