飯倉大樹にしかできないプレーと発せない言葉
2019年夏から2022年の終わりまでの3年半を神戸で過ごし、2023年にアカデミー時代も過ごした古巣へ復帰。以降、自身の試合出場やプレー以上にフォア・ザ・チームを強調してきた。時には「オレは3人目のGKコーチだから」と本気のようなジョークで取材陣を和ませる。
恐らくキャリアの晩年に差し掛かっている。それでも、ここぞという場面での鬼気迫るセーブと老獪なゲームコントロールは周囲にまったく見劣りしない。神戸戦のように若く、経験に乏しい選手を叱咤激励できるのも飯倉だからこそ、だ。
節目の試合出場にコメントを求められると、少し恥ずかしそうに言った。
「20年かけて300試合は多いのか少ないのか分からないけど、古巣の神戸戦でマリノスのユニフォームを着て300試合を迎えられたのは感謝しかない。あとは20年前の自分に、言ってやりたい。お前300試合出るぞ、って。プロサッカー選手としてこんなにやれるとは思っていなかった」
プロ1年目は1試合も出場できず、2年目はJFLのロッソ熊本(現・ロアッソ熊本)に期限付き移籍した。当時はプロ20年目も、J1通算300試合出場も、そしてマリノス愛がこんなに大きくなることも、すべて想像できなかった。
飯倉大樹にしかできないプレーと発せない言葉。敗れた試合でも、存在意義がしっかりと見えた真夏の夜だった。
(取材・文:藤井雅彦)