“エンバペ中心”がチームに軋轢を生んだ?
大会前からデシャンは、エンバペを中心にチームを構築することを公言していた。
それは今大会に限ったことではなく、前回のワールドカップ後にキャプテンの腕章をエンバペに授けたときから、彼が今後のレ・ブルーの中核となったのだった。
しかし大会前から背中や足首を痛めていたエンバペのコンディションは100%ではなく、そこに鼻の骨折が追い打ちをかけた。
それでもデシャンがエンバペ偏重の姿勢を崩さなかったことが、チームに次第に軋轢を生んでいったようなのだが、レキップ紙はそれにまつわるいくつかのエピソードを伝えている。
たとえば、コンディションのよくないエンバペが、フィジカルトレーニングを免除されたことがあったという。数人の選手たちは、キャプテンであるエンバペがそれでは示しがつかないと、翌日、同じトレーニングを彼もやるべきだと主張した。しかしデシャンは、「試合の2日前にはフィジカルトレーニングはしないから」などと理由をつけて退けた。
デシャンはおそらく、他の選手であっても同じ返答をしていたのだろうが、こうした出来事の積み重ねもあって、チームは次第にグループに分かれていった。そのことを感じ取ったデシャンらコーチングスタッフは、ロッカールームのポジションをシャッフルしてグループを解体させようとしたが、このときも、エンバペと彼と親しい選手たちのポジションだけはそのままにされていたことも、選手たちの心象を一層悪くしたという。
また、コンディションが悪いなら悪いで、他に調子のいい選手をもっと使えばいいのに、という感情も選手の間に湧いていた。たとえば昨シーズン、所属するPSGで大ブレイクした18歳の新星ウォーレン・ザイール=エメリは、招集こそされたが、1分たりともピッチに立つことなく大会を終えている。
それでも信頼を託された大エースが大仕事をやってのければ、デシャンの行為は正当化されていたところだった。22年のW杯決勝アルゼンチン戦で、80分から3点をぶちこんでPK戦に持ち込んだときのように。
しかし今回は違った。