「何かちょっと明るくやろうかな…」
「いまの時代はいろいろなポジションでプレーできた方がいいし、何よりも自分のプレーの幅も広がる。まだまだ足りない部分もありますけど、試合でこういう状況になったときに自分が得点に絡めるようになれば、チームに貢献できるだけでなく自分の価値もさらにあがっていくと思うので」
川崎戦後にはセレッソから離れ、モードをフランスへ向かうU-23代表のそれに切り替えた。西尾の手には試合後にファン・サポーターから手渡された、激励の寄せ書きが続けられた日の丸などが握られていた。
「日の丸とセレッソのエンブレムと、あとはパリ五輪のタオルみたいなものをいただきました。自分にとっては一生の宝物になる、パリ五輪での自分の力にもなる。本当に感謝しないといけないですね」
冒頭で西尾が言及した「みんなにすごく感謝しなきゃいけない」を、あらためて考えてみた。
アジアカップを勝ち抜いて、パリ五輪出場を決めた同世代のチームメイトたち。帰国後の自分を認め、積極的に起用してくれた小菊昭雄監督をはじめとするセレッソの首脳陣。パリ五輪代表に選出してくれた大岩剛監督は、守備陣で特に必要だと指摘されてきたオーバーエイジを一人も招集しなかった。
そして、旅立つ直前に熱いエールを届けてくれたセレッソのファン・サポーター。感謝の思いを届ける「みんな」が大勢いるからこそ燃える。川崎戦の直前に髪の毛をまばゆい金色に染めた西尾は、目標に掲げる金メダル仕様なのか、という問いに「まあ、そう言われますけど…」と苦笑しながら、こんな言葉を残している。
「何かちょっと明るくやろうかな、と思って、一昨日くらいに染めました」
一夜明けた15日に機上の人になった西尾は、すでに現地時間17日に行われる開催国U-23フランス代表との国際親善試合(トゥーロン)へ向けて心技体を集中させている。どん底の状態から自らの力ではいあがり、ムードメーカーをも兼ねるセンターバックの、一世一代の大勝負が幕を開けようとしている。
(取材・文:藤江直人)