試合の明暗を分けたサウスゲート監督の采配ミス
【写真:Getty Images】
試合の明暗を分けたのはガレス・サウスゲート監督の消極的な采配だ。内容としては延長前半直後に勝ち越したスロバキア代表とのラウンド16と一緒で、同点や勝ち越しゴールの直後に保守的になってしまう彼の癖が出てしまった。
73分に同点に追いついた直後にイングランド代表の指揮官は、自陣で守る際に右WGのブカヨ・サカを右WBに下げる「3-4-2-1」へとシステムを変更。自陣でブロックを敷いてカウンターを狙いたかったのかもしれないが、ハイプレスでペースを握り返し、同点ゴールに追いついた過程を踏まえると、その勢いで勝ち越しを狙いたかった。
しかし、撤退したことで再びペースはスペイン代表が握り、86分の失点シーンはサウスゲート監督の采配が悪い結果に出た。敵陣でのスローインの際にイングランド代表の最終ラインは撤退への意識が強すぎるあまり、ラインを上げておらず、デクラン・ライスとジュード・ベリンガムのダブルボランチもかなり低い位置にいた。
一方の前線はパスの出し先を限定するようなプレスを掛けていないが、前に残っているという中途半端な形に。その結果、イングランド代表の陣形はスローインというリスタートの状況だったのにも関わらず、かなり中盤が間延びしていた。
この隙を突いたスペイン代表はCBのアイメリク・ラポルテから一列前のファビアン・ルイスに縦パスを通すと、広大なスペースを活かして簡単に前進。ダニ・オルモとミケル・オヤルサバルにもノープレッシャーでパスが通った。
逆にイングランド代表の守備はズルズルと下がるだけで、スペイン代表の選手に全くプレッシャーをかけることができなかった。
個人の能力の高さで解決することが多いイングランド代表は、相手に隙を与えてしまう結果となったが、対するスペイン代表は時間帯や状況によって整備されたハイプレスとブロックを敷いた撤退守備を使い分けており、チームとしての完成度の差は歴然だった。
スペイン代表の優勝を心から祝したい。かつてのように保持だけでなく、4局面すべてにアプローチしている彼らこそ欧州の頂点に値するチームだった。
(文:安洋一郎)