オリー・ワトキンス投入の劇的効果
足元でボールを受けたがるケインに対し、ワトキンスはシンプルな裏抜けでゴールを狙う。後者は投入直後からその特徴を存分に発揮してみせた。
ワトキンス投入の目的と、ブレントフォードのFWイヴァン・トニーがこのタイミングで起用されなかった理由はここにある。ファン・ダイクを始めとする高身長DFが揃うオランダ代表に対して、イングランド代表が空中戦を挑むのは得策ではない。自ら相手の得意なフィールドで戦うようなものだからだ。空中戦に強いイヴァン・トニーではなく、絶妙な背後への抜けだしでゴールを強襲するワトキンスの方が、オランダ代表にとって厄介な存在になるとサウスゲート監督は考えたのだろう。
「オリーは上手くプレッシャーをかけて背後に走りこむことができる。だから試してみるには良いタイミングだと考えた」(英メディア『Daily Mail』)
サウスゲート監督は試合後、自身の采配についてこのように振り返っている。その狙い通り、ワトキンスはファン・ダイクとデ・フライの間のスペースに走り込み、決勝進出を決めるドラマチックなゴールを奪った。指揮官が並々ならぬ覚悟を持って下した決断が、停滞していた前線に大きな変化を生み、勝利を手繰り寄せたと言っても過言ではない。
筆者は、この成功体験がイングランド代表とサウスゲート監督に新たな力を授けると考える。
ケインの実力には疑いの余地が無いが、これまでのスリーライオンズは良くも悪くも常にエースに勝敗を託し続けてきた。だがどんなに優れた選手だって、調子が悪い試合は存在する。今回、途中投入したワトキンスがインパクトのある活躍を残したことで、そういう行き詰まった試合で(良い意味で)ケインを諦めやすくなったはずだ。ようやく「ケインを代える勇気」を見せ、自信をつけたサウスゲート監督は、スペイン代表との決勝戦でどんな采配を見せてくれるのだろうか。
(文:竹内快)