38歳を支えた16歳ラミン・ヤマルの工夫
その理由こそ、ナバスがセビージャでプロデビューを飾った4年後の2007年に生まれた右WGラミン・ヤマルの存在だ。
21分に今大会のベストゴール候補筆頭に挙げられるだろう豪快なミドルシュートでユーロの最年少得点記録を大きく塗り替えた神童は、このゴールシーン以外にも素晴らしい活躍を披露している。
守備では最終ライン近くまで戻り、時にはダブルチームで相手の左WGとマッチアップ。ナバスが怪我のためにベンチへと下がり、右CBで先発出場していたナチョが右SBにポジションを移して以降も運動量を落とすことなく対応し、チーム最多となる3つのタックルを成功させた。
保持の局面では縦関係でコンビを組む選手がカルバハルから大外のレーンでのプレーを好むナバスに代わったことで、これまでの試合とは違った工夫をみせる。
準々決勝までは基本的に大外で張って勝負をしていたが、フランス代表戦では内側のレーンに絞ってライン間でボールを引き出すプレーを織り交ぜることで、相手の守備の基準をズラし、自らに視線を食いつかせてナバスが上がるスペースを作り出していた。
それが功を奏した場面が25分の追加点のシーンだ。大外から内に絞るアクションで相手のマークにズレを作ると、縦関係となったオルモにパスを通し、最後は大外でフリーのナバスへボールが渡った。ベテランSBは対峙したテオ・エルナンデスを抜ききらずに鋭いクロスを相手GKとDFの間に通すと、そのクリアボールを拾ったオルモが見事な個人技から右足を振り抜いた。
スペイン代表の最年少得点者と最年長出場者による異色の組み合わせは、準々決勝までPK以外で失点を喫していなかったフランス代表の堅守に風穴を開けた。恐らく決勝では出場停止処分が明けるカルバハルとヤマルの縦関係に戻るだろうが、フランス代表を攻略した22歳差のコンビが準決勝の大舞台でみせた好連係は伝説として後世に語り継がれるだろう。
(文:安洋一郎)