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「東欧最強クラブ」と呼ばれるウクライナのシャフタール・ドネツク。チーム関係者の膨大な証言を通して、知られざる流浪の英雄たちの戦いに光を当て、クラブの熱源に迫った『流浪の英雄たち シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』より「東欧のバルセロナ」を一部抜粋して公開する。(文:アンディ・ブラッセル、訳:高野鉄平 )
「私の考えるサッカーにとても近かった。」
【写真:Getty Images】
当時のビエルサは、輝かしいキャリアの頂点とは程遠い状況にあった。
大金を投じて補強されたチームはリーグ下位で苦戦を強いられ、フランスメディアではチーム内の規律の乱れを伝える記事が数え切れないほど掲載された。
混乱が極まる中、ビエルサはリーグ戦わずか13試合を終えた時点でチームを追われることになった(ビエルサとリールとの関係は法廷闘争にまで発展し、不当解雇を訴えるビエルサ側は2000万ユーロ近い賠償金を請求)。
だが扉はすでに開かれ、デ・ゼルビのイマジネーションには火がついていた。
もしスルナが現役時代の全盛期だったとすれば、デ・ゼルビの率いる優れたチームでプレーしてみたいという冒険心を抱いたと想像できる。
同監督がエミリア・ロマーニャを離れることが明らかになると、欧州全土から関心が寄せられた。イタリアの他クラブだけでなく、フランス(リヨンが特に熱心だった)やイングランドからも。
だがイタリア人指揮官は、その頃ウクライナの王座から引きずり降ろされていたシャフタールとの間ですぐに合意に達した。
「第一の大きな共通点は、選手たちに浸透しているプレースタイルだ」とデ・ゼルビは、ランシングにあるブライトン&ホーヴ・アルビオンの練習場にあるオフィスで語ってくれた。
「そしてシャフタールの選手たちは、私の考えるサッカーにとても近かった。それは、ウィリアンやドウグラス・コスタ、フレッジ、フェルナンジーニョがシャフタールでプレーしていた10年前から変わっていないものだ」。
シャフタールはデ・ゼルビが適任であることを確信し、彼の獲得競争に何が何でも勝つつもりであったが、相思相愛であることもすぐに明らかになった。
デ・ゼルビは会長にすっかり心を奪われており、それは今でも変わってはいない。
「(シャフタールの)アイデンティティは続いていく。なぜなら、アフメトフは正真正銘サッカーの専門家だからだ。
彼はシャフタールが勝つところを見たいと思っているが、それ以上にシャフタールが良いサッカーをするところを見るのが大好きなんだ。まさにそれこそが我々の共通点であることがすぐにわかった」
デ・ゼルビはウクライナスーパーカップでは勝利を飾ったとはいえ、戦争によって断ち切られた短すぎる在任期間中に、シャフタールを欧州で本格的に躍進させることはできなかった。
「もっと勝ち点を獲得できたはずだったと思う」と、彼はチャンピオンズリーグのグループステージを振り返る。
母国のインテルを相手に堂々と戦い、勝利目前に迫ったこともあった。スルナの脳裏にも、時折そのことが浮かんでは消え続けた。「チャンピオンズリーグでの我々はまったく幸運に恵まれなかった」と。
(文:アンディ・ブラッセル、訳:高野鉄平 )
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<書籍概要>
『流浪の英雄たち シャフタール・ドネツクはサッカーをやめない』
アンディ・ブラッセル 著、高野鉄平 訳
定価2,420円(本体2,200円+税)
8年間で2つのホームを失ったウクライナ最強クラブの熱源
「東欧最強クラブ」と呼ばれて久しいウクライナのサッカークラブ、シャフタール・ドネツクは、2014年以来、ホームスタジアムでプレーしていない。同年4月にドンバス地方で戦闘が開始されると避難を余儀なくされ、22年2月にはロシア軍のウクライナ本格侵攻により再度の避難を強いられた。さらに主力選手の流出など、自らの姿を見つけだす必要に迫られる普通ではない状況の中、それでもシャフタールは普通にプレーし続けている。シャフタール関係者の膨大な証言を通して、知られざる流浪の英雄たちの戦いに光を当てる。
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【了】