「いままであまり言っていないんですけど」「最期まで何もしてあげられなかった悔しさ」
「家族のLINEグループに、父が朝早く起きて、仕事に行く前に姉のために作ったお弁当の写真が毎日送られてくるんです。それで僕も、母が作ってくれたお弁当の写真を送って。僕自身はサッカーだけがしたくて湘南にきたんですけど、振り返ると中学2年生のころが本当にダメで。結果を出せずに苦しんでいる僕を見た家族も悲しんでいるのをずっと見てきたし、だからこそいつかは必ず恩返しをしたいと思ってきました」
湘南の公式ホームページの選手紹介欄で、宝物を問われた石井は「家族」の二文字を記している。プロ契約とともに新たな一歩を踏み出した今シーズン。母親も倉敷市へ戻ったなかで、プロ初ゴールは最高の恩返しになった。LINEグループには母方の叔父を含めて、試合後に早くも祝福メッセージが届いていた。
今シーズン開幕から約1カ月半がすぎた4月6日に、入退院を繰り返していた母方の祖母、渡辺栄子さんが他界した。翌7日に敵地・エディオンピースウイング広島でサンフレッチェ広島とのアウェイ戦があり、石井自身も81分から出場したが、祖母が住んでいた倉敷市には寄らずにそのままチームとともに帰京している。
初ゴールを決めた6日は、祖母の月命日でもあった。自らを「おばあちゃん子でした」と振り返った石井は声をちょっぴり詰まらせながら、プロの一人として、あえて通夜や葬儀告別式に出なかったと明かしている。
「シーズン中だったので…平塚に引っ越してからの6年間もなかなか戻れず、会っても年に2回くらいだったので、おばあちゃん孝行というか、最期まで何もしてあげられなかった悔しさがありました。月命日である今日にこういう形ですけど、自分も頑張るよ、というメッセージを届けられたと思っています」
もう一人、天国へ思いを届けたい存在がいる。1月の新体制発表会見後の囲み取材で、石井は「いままであまり言っていないんですけど」と断りを入れながら、胸中に秘めてきた思いを明かしている。