「いったい誰がやるんだ」小林悠が向けた矢印
「パスがきたら自分が打つ準備をしていました。ただ、パスを出すかどうかを決めるのはボールをも持っている選手だし、悠さんもフォワードだし、自分もフォワードの身としてあそこで打ったのはよくわかります」
3試合連続でマルシーニョが先制点を決めながら、川崎はすべて引き分けで終えている。新潟戦は後半アディショナルタイムに逆転されながら、直後に山田が同点弾を決める執念を見せ、湘南戦と広島戦は前半からほぼ完璧な内容で相手を圧倒しながら、追加点を奪えない試合展開の末に追いつかれた。
「前半から内容もよかったし、ここで勝てば一気に波に乗っていける、いい方向にもっていけると思っていたんですけど…うーん、そうですね、最後の方は力不足だったと思います」
小林は再び自らへ矢印を向けた。後半開始とともに敵地・エディオンピースウイング広島のピッチに立ち、今シーズン初ゴールをゲット。J1通算ゴールを140に伸ばし、それまで並んでいたFW三浦知良を抜いて歴代7位に浮上した4月28日の広島戦で、小林は胸中に秘めていた熱い思いを明かしている。
「ここで一番長くプレーしている自分が奮起しないで、いったい誰がやるんだという気持ちでした」
ここまで一度も連勝がない川崎は、J1復帰を果たした2005シーズン以来、実に19年ぶりに負け越してシーズンを折り返している。4月の広島戦でゴールを決めた後に負傷交代し、8試合の欠場を余儀なくされていた小林も、川崎が獲得したすべてのタイトルを知っている立場から忸怩たる思いを募らせている。
「本当にここ3試合、前半はすごくいい戦いができているけど、後半はちょっと…前からいけなくなってくると、嫌な時間や押し込まれる時間が増えてきて、なかなかパワーを出すシーンが少なくなってくる。追加点を取るのか、しっかり守り切るのかという点が、現時点でチームが抱えている課題だと思っている」
チームが乗り越えるべき壁は、その高さを含めてはっきりと見えている。あと少し、という感覚があるからこそ、試合直後に「自分がきっちりと決めていれば、勝てた試合でした」と小林は唇をかみしめた。もちろんファイティングポーズは失っていない。7個ものタイトルを未来へつなげるベテランとして、そしてゴールへの稀有な嗅覚を武器とする異能のストライカーとして、9月には37歳になる小林は闘い続ける。
(取材・文:藤江直人)