試合の明暗をわけた「交代策」
完全に試合のペースを握ったフランス代表だが、試合を通して19本のシュートを放ちながら枠を捉えたのは2本のみと最後の決定力が足りなかった。この日はエースのキリアン・エンバペも5本のシュートを放ちながら1本も枠内シュートを打てていない。
両チームともになかなかゴールを奪えないという展開で、残り30分となった60分ごろに両指揮官が動いた。
62分にフランス代表は前半に決定機を外したテュラムに代えて、よりストライカータイプのランダル・コロ・ムアニを投入。その1分後にベルギー代表は3列目で起用していたケビン・デ・ブライネを高い位置に上げるために、ツートップの一角であるロイス・オペンダを削ってボランチのオレル・マンガラを投入した。
結果論にはなるが、この交代策が試合の結果を決めている。85分にコロ・ムアニはエンゴロ・カンテからパスを受けてから強引に持ち出して右足を振り抜き、ヤン・ヴェルトンゲンのオウンゴールを誘った。これが決勝点となっている。
一方のベルギー代表はデ・ブライネを高い位置に上げるという作戦にこそ成功したが、アマドゥ・オナナとマンガラのコンビでは中盤でボールが回らない。そもそも頼みの綱であるデ・ブライネのところにボールが届かない展開が多かった。
オナナとマンガラのダブルボランチは0-1で敗戦したスロバキア代表との初戦でも保持の局面で全く機能していない。仮にマンガラではなく、より周りの動きを見ながら効果的にパスを出せるユーリ・ティーレマンスを投入していたら試合展開は変わっていたかもしれない。
奇しくもこの試合のラストプレーは、ボールを奪いドリブルでのキープに成功したコロ・ムアニと、それを後ろから倒してイエローカードを貰うマンガラという、交代でピッチに入った2人が関わったものである。交代策に“成功したフランス代表”と“失敗したベルギー代表”という構図そのものだった。
交代策こそ、指揮官の柔軟性が問われる場面であり、ディディエ・デシャン監督とドミニコ・テデスコ監督の采配が試合の結果を決めた。ベンチにいる選手のクオリティの差があったにしろ、それをどのような場面で効果的に起用するかは指揮官の腕にかかっており、彼らの間にも大きな差があったのは確かだろう。
誰を起用しても強力な大会随一の選手層と指揮官の采配力、ピッチ上での柔軟性をみると、依然としてフランスが優勝候補筆頭だと言っていいだろう。
(文:安洋一郎)