デビュー戦で言われた「お前、何やねん」
「彼の持っている力、選手としての能力というものも含めて今日起用しましたけど、ピッチに立ったのは10分くらいだったと思いますが、非常によくボールに食らいついていました。スピードとコーディネーションが非常に高い選手なので、これからのサンガを支えていくような選手に成長してほしいと思っています」
勝利に沸く試合後のロッカールーム。中野はチームメイトたちからイジられていた。危険を察知して、敵陣から自陣まで長い距離を戻ってきた92分。左角あたりからペナルティーエリア内へドリブルで侵入してきた湘南のルーキー、FW石井久継を中野が背後から追走したときに石井が倒れてしまったからだ。
敵地のスタンドからは中野のファウルを指摘し、PK奪取を期待する大歓声がわきあがった。しかし、2人の攻防を間近で見ていた池内主審は笛を吹かない。とたんにブーイングに変わったなかで、中野は「僕個人としては『大丈夫や』と思っていましたけど、それでもちょっと焦りました」と苦笑いを浮かべた。
「(石井に)当たっていないので、PKとちゃうんですけど…みんなからは試合後に『危なかった』とか『お前、何やねん』とかめちゃ言われました。自分としては落ち着いてプレーできていたんですけど」
実績のない若手だろうが相手としっかり戦えて、チームの力になると判断すれば、周囲からは大抜擢に映る選手起用を曺監督はまったくためらわない。湘南を率いた7年半の日々で実践され、遠藤航らを成長させてきたスタンスは2021シーズンから指揮を執る京都でも貫かれ、いままさに中野も組み込まれた。
来シーズンから正式に加入する中野のプレースタイルを、京都は次のように伝えている。
「抜群のスピードを生かしたドリブルと、裏への抜け出しでゴールに直結する仕事ができるドリブラー。機動力と俊敏性を兼ね備え、攻守にアグレッシブなプレーをするアタッカー」
アグレッシブなチェイシングで京都を助け、めぐってきたチャンスに応えた中野は「ここから結果を残していきたい」と、今度は自らの体に搭載された武器で京都の力になる姿を早くも思い描いている。
(取材・文:藤江直人)