オランダ代表との試合でみせた相手に合わせた攻撃パターン
その代表的なシーンが2つある。1つ目が16分に訪れたこの試合最大の決定機だ。
アドリアン・ラビオがマルクス・テュラムとのパス交換でボックス内に進入し、最後アントワーヌ・グリーズマンへとラストパスを出したこのシーンで、フランス代表は見事な連係でファン・ダイクをゴール前から遠ざけた。
それを可能にしたのがテュラムのポストプレーである。ボックス外にてファン・ダイクを背負った状況でラビオからパスを受けたインテル所属のFWは、そのままボックス内に進入したラビオへとリターンパスを通している。
いかにファン・ダイクをボックス外に釣りだすかが勝負の分かれ目であり、潰されてボールを奪われるリスクを背負ったとしてもそのリターンは大きい。
65分に訪れた決定機も同様だ。グリーズマンが最前線から下りてボールを受けようとすることでファン・ダイクをボックス外に釣りだすと、彼が空けたスペースに右サイドから走り込んできたテュラムが進入。最後はカンテのラストパスを受けたグリーズマンがゴールを狙ったが、15分のシーン同様にボールをミートすることができず、相手GKに阻まれた。
先述した通り、フランス代表は「ユニットでの崩し」にかなり重きを置いているチームで、15分のシーンも65分のシーンも3人以上の選手が攻撃に関わりながら流れるようなポジションチェンジで決定機を演出している。それもカンテやラビオといった3列目の選手たちの攻撃参加が目立っており、相手からすると非常にマークがしづらい。
このユニットでの崩しに加えて、75分にオリビエ・ジルーを投入してからは別の形でゴールに迫る。高さと周りの選手を活かすことに長けている彼の特長を活用した方法で効果的なチャンスを作り出していた。
優勝を目指す強豪国の中で途中出場から攻撃の形を変えて、明確に流れを変える切り札を持っているのは、ニクラス・フュルクルクがいるドイツ代表にペドロ・ネトがいるポルトガル代表、そしてジルーがいるフランス代表の3チームぐらいだろう。
フランス代表は攻撃の手札が多いだけでなく、守備も強固であり、オランダ代表との試合で明確に決定機を作られたのはオフサイドでゴールを取り消されたシーンぐらい。カウンターの芽をカンテや両CBがことごとく封じており、GKのマイク・メニャンも安定している。
これだけベンチワークも含めて、攻守に充実しているナショナルチームはそういない。今大会も優勝争いに絡んでくるのは間違いないだろう。
(文:安洋一郎)