オーストリアは「台風の目」になれるか
この戦術はオーストリア代表にとって、サイドバック裏のスペースをフランス代表のアタッカーに使われてしまうと致命的な危機に陥ることになる。が、素早い帰陣とケヴィン・ダンソらの体を張ったディフェンスがこれを可能にした。
オーストリア代表は組織的なプレスでフランス代表と“ほぼ対等に”戦ってみせた。加えて、単にロングボール1本でゴールを狙うのではなく、速攻と遅攻を使い分けてゴールに迫っていった。グループEにはフランスだけでなく強豪オランダも属しているが、オーストリア代表が決勝トーナメント進出を果たす可能性も十二分にあるのではないか。「台風の目」として大会をかき乱す存在になるかもしれない。
良いチームであることは間違いないが、懸念材料は2つある。1つは選手層の薄さだ。現状のサッカーを続けるにはライマーとザビッツァー、あとはフロリアン・グリリッチュ、ニコラス・サイヴァルト辺りの中盤の主力が不可欠。無尽蔵のスタミナを持つ彼らが欠けると、90分間強度の高いサッカーを展開するのが難しくなる。
そしてもう1つは、攻撃時にアイデアの少なさが若干感じられたことだ。鋭いカウンターや細かくパスを繋いで中央突破を目指す形はフランス相手にも効果があったが、サイドからのクロスは得点の匂いが薄かった。交代選手含む両SBからのクロスの成功率は10%(1/10)となっており(データサイト『Sofa Score』参照)、勝利を掴むためにはサイドからの攻撃にアイデアが欲しい。また、ザビッツァーなどキック精度の高い選手がもっと積極的にミドルシュートを狙っていくことも得点のチャンスに繋がるだろう。
それでも、ラングニック監督率いるオーストリア代表はこの一戦で今大会の「台風の目」になる素質が十分過ぎるほどあることを証明した。大きなポテンシャルを秘めたチームが、かつてヨーロッパで猛威を振るった「ヴンダーチーム(奇跡のチーム)」再現に成功するのか注目だ。
(文:竹内快)