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【クロップ監督とリバプールの戦術史4】辿り着いた1つの最終地点。ゲーゲンプレスを成功させる理屈

text by 結城康平 photo by Getty Images

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2015年10月にリバプールの監督に就任したユルゲン・クロップは、在任9シーズンの中で様々な変化をもたらし、輝かしい実績と功績を残した。クロップ政権下のリバプールを戦術的に記した2万字に迫る長編コラムから一部を抜粋し、最高クラスの完成度を見せた19/20シーズンを取り上げる。(文:結城康平)

クロップ
【写真:Getty Images】


サム・アラダイスのリバプール評(19/20)

 そして、このシーズンにおけるリバプールの戦術的な特徴として「ロングボールの活用」がある。アリソンやDFラインからロングボールを狙うことで一気に状況を打開するだけでなく、リバプールはサイドチェンジも効果的に使っていた。ロングボール戦術の先駆者としても知られるサム・アラダイスは、次のようにリバプールの戦術を解説している。

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「リバプールは右サイドから左サイドへ、迅速なロングボールで効果的な攻撃を仕掛けるチームだ。しかし、誰もリバプールがロングボールのチームだとは考えていない。それが前線へのフィードではなく、サイドチェンジだからだ。リバプールがロングボールをシンプルに前線に当てるようなことは少ないかもしれないが、彼らはロングボールを活用している。彼らは、ロングボールをプレミアリーグで最も効果的に使っているチームだ」

 この長いボールの活用は、アーノルドというキック力と精度を兼ね備えたサイドバックによって可能になった。しかし、バルセロナとのゲームにおける成功も1つの要因だったかもしれない。マネへのロングボールはチームにとって信頼すべきオプションとなっており、彼に長いボールを蹴ることでチャンスが生まれることもチームの共通認識となっていた。

 また、ファウルの少なさも特筆すべき部分だった。当時のマンチェスター・シティがテクニカルファウルと呼ばれるような「流れを止めるようなファウル」を効率的に使っていた一方で、このシーズンのリバプールはターンオーバーをクリーンに奪うことでも注目されたチームだった。

 冬には日本代表の南野拓実を補強しており、彼もレッドブルグループからの獲得だった。スピーディーな攻撃にアクセントを加えられる選手として知られており、3トップのバックアップとして複数のポジションに対応する柔軟性も評価されていた。チームには定着しきれなかったが、リバプールとしても3トップに過度に依存することに危険性については理解していたのだろう。本来は供給役としても機能する南野は、前線のオールラウンダーとしてチームに定着する可能性はあったはずだ。

 ヘッドコーチのラインダースはチームが連携して「コンパクトな距離感を保つことの重要性」を強調しており、タイミングこそが鍵になると述べた。タックルが遅くなればファウルになる可能性が高まってしまうので、チームの組織的な守備能力を高めることで、正確なタイミングでボールを奪うことが可能になるという理屈だ。

 距離感と組織的な守備を整え、彼らは先行して動き出しながら正確なタイミングでボール奪取を狙うことに成功していた。ラインダースが副官となったリバプールは、少しずつポゼッション局面にも重心を置くチームとなってきていた。クロップとリバプールは補強によってチームを完成させ、ゲーゲンプレッシングという流行における一つの最終地点に辿り着くことに成功した。

(文:結城康平)

【この記事は一部抜粋したものです。記事全文ではユルゲン・クロップがリバプールの指揮を執った約9年間の変遷を、戦術的な視点で詳細に記しています】

【了】

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