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【欧州CL決勝分析コラム】レアル・マドリードは“憎たらしい”。中途半端な前半から、どのように優勝を掴んだのか

シリーズ:分析コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

カルロ・アンチェロッティ監督の見事な修正力

レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督
【写真:Getty Images】


 後半にかけてのアンチェロッティ監督の修正力は見事だった。

 前半と後半の最大の違いは被保持の局面での意識の差だ。中途半端に前に出て行った前半に対して、後半は[4-5-1]もしくは[4-4-2]のセットで構え、後ろ重心にすることで、前半に有効だったドルトムントのカウンターの機会を減らしていた。

 それはボール保持率を見れば明らかで、前半にレアル・マドリードは64%ボールを握っていたが、後半は49%に下がっている。チームとして不用意なロストを減らし、あえて相手にボールを持たせることで、脅威となっていた縦に速い攻撃の回数を減らしたのだ。

 その中でもいくつかドルトムントのカウンターのチャンスが生まれそうだったが、フェデリコ・バルベルデとエドゥアルド・カマヴィンガの両選手が試合終了のホイッスルが鳴るまで高い強度を維持し、怒涛のカウンタープレスで封じていた。試合を通してヴィニシウス・ジュニオールしか警告を受けなかったのが、最後まで高い強度を維持できた理由だろう。

 逆にドルトムントは両CBと中盤で強度を出せるマルセル・ザビッツァーが警告を受けてしまったことで、試合終盤にかけて前半ほどの圧力を掛けられなくなっていた。特にシュロッターベックが貰った40分のイエローカードは抗議によるもので、これは勿体なかった。

 粘り強く守ってからヴィニシウスやロドリゴらキャリー能力のある選手を活かす形にチームとしての目線が揃ってからは、徐々にペースがアンチェロッティ監督のチームへと流れる。

 押し込むフェーズが増えたことで、フリーキックやコーナーキックからチャンスを得ると74分にトニ・クロースのコーナーキックからのクロスをニアでダニエル・カルバハルが合わせて先制に成功する。この形は後半開始直後の49分にも見られており、フィーリングが合ってきた中で生まれた先制ゴールだった。

 そして83分にイアン・マートセンの横パスのミスを奪うと、最後はヴィニシウスが1対1を決めきって勝負あり。このゴールで勝利を決定づけ、見事2シーズンぶり15度目の優勝を飾った。

 相手の良さを消した上で粘り強く守り、最後はセットプレーとミスを逃さずに訪れた決定機を確実に決めきる。今回の決勝はクリスティアーノ・ロナウドやガレス・ベイルが在籍していた頃のような派手ゴラッソが決まる一戦ではなかったが、憎たらしいほどの試合巧者ぶりで自分たちに“優勝“の2文字を手繰り寄せた。

(文:安洋一郎)

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