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「BoS理論」が現役Jリーガーに与える影響。「監督が何を志向し、何を求められているかを理解する」【コラム】

シリーズ:フットボール批評オンライン text by 岡田優希 photo by Getty Images

「BoS理論」とは?



 著者は大学院卒業後高校教師を務めていたが、サッカー選手になるという夢を捨てきれず、2004年に単身渡独し練習参加を繰り返した。

 しかし20年前のドイツサッカー界では、現在ほどの日本人の立場は確立されておらず、人種差別も経験し、さらには自身の病気や怪我も相まってプロ契約を得ることはできなかった。しかし、ドイツでの夢を諦めることはなく、2006年から指導者としての修行を始め、シュトゥットガルトの育成組織の門を叩き、最初は無給でコーチを務める。

 2009年から正式な指導者となり、2011年1月には岡崎慎司選手がシュトゥットガルトに加入したことでトップチームの通訳として昇格。さらには同年12月には酒井高徳選手も加わり、2013年8月まで通訳として監督、コーチをサポートした。

 その後はスカウトや日本プロジェクトのコーディネーターを務め、2015年6月に退団。それから現在に至るまで、コンサルティング会社設立やブンデスリーガの解説、さらには指導者講習会や講義・講演活動など幅広く活動を行う。日本での仕事をこなしながらも住まいはドイツ・シュトゥットガルトにあり、2022年12月に恩師ブルーノ・ラバディア監督がシュトゥットガルトの監督に就任した際には練習見学に足を運び、常に最先端のドイツサッカーの研究をしている。

 本書のタイトルになっている「BoS理論」は、著者が長年修行をしているシュトゥットガルト市バーデン・ヴュルテンベルク州のヴュルテンベルクサッカー協会の指導者講習会で使われる資料がベースになっている。本書はそれを日本語訳して編集し、「ボール非保持」にフォーカスしている。

「BoS理論」の根幹をなしているのは、「ボールを中心に考え、サッカーをする」ということである。つまりそれは局面を攻撃と守備に分けず、ボール保持は「ゴールへの攻撃」、ボール非保持は「ボールを奪う攻撃」と捉え、チームの「常時攻撃態勢」を可能にする。その意図を著者は、「結局、人がどこにいようが、行こうが、スペースを突こうが、ボールが相手ゴールに入れば得点になり、ボールが自陣ゴールに入らなければよい」(p17)と述べる。

 これこそがドイツにおけるサッカーの根本的な前提であり、常に攻撃態勢であるからプレーヤーがダイナミックに躍動するのだ。

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