「思考がちょっと危ないと思う」
【写真:Getty Images】
「ビルドアップがうまくいったからいい、といった思考がちょっと危ないと思う。別に5本や6本、あるいは7本や8本とパスを繋いで前に進むよりも、2、3本のパスで前へ進んだ方がいいわけで、そこの効率というのがちょっと悪いのかな、と。自分たち中盤の選手たちがもっともっと手ほどきする部分でもあるし、練習の段階から最適な立ち位置を取れるようにやっていく必要があると思っている」
あらためて言うまでもなく、川崎Fが理想として掲げているのは敵陣でのパス回しを多くする試合展開だ。ゴミスと遠野のワンタッチを含めて、家長から4本のパスをテンポよく繋いで奪った脇坂の先制ゴールが物語るように、はまれば相手を翻弄し、脅威を与える攻撃を繰り広げられる。
頭では理解していても、柏戦の後半のようになかなか実践できない。理想と現実の間で揺れるもどかしさが、折り返しも近づいてきたJ1リーグで川崎Fが15位にあえぐ要因でもある。
「相手に前向きでプレスをさせないためには敵陣でプレーした方がいい。その方が相手も嫌がるし、そのためにどうすればいいのか、というのを考え続けないといけない。僕としては、実行するためには選手を(適切に)配置する準備は絶対に必要だと思っている。アドリブではなかなか厳しいものがあるので」
チームの現状をこう語った脇坂は、同点とされた直後の61分、そして交代する直前の75分とパスミスを繰り返している。前者ではMF橘田健人へ戻すはずのパスを木下にわたしてしまい、カウンターを発動された。後者では前方にいた家長へのパスが合わず、そのまま右タッチラインを割った。
前半から飛ばした影響からか。それとも、悪い流れにのみ込まれたからか。脇坂は自らを責めた。
「あれは僕のミスです。完全に技術的なミスです。自分が合わせてかないといけないし、ああいう形でプレーが途切れてしまう、というのは本当によくないと思っている」
チームに関わる全員で反撃を誓い合った5月を、2勝2分2敗で終えた。5戦未勝利で、そのうち4試合で無得点だった4月に比べれば、6試合すべてで先制点を奪うなど改善されつつある跡もある。
「結果として(5月は)勝ち点を思い通りに積み重ねられなかった。6月は連戦もあるし、来週はまたホームでゲームができるので、そこへ向けていい準備していくことが大事だと思っている」
川崎Fのバンディエラ、中村憲剛さんの象徴だった「14番」を志願する形で背負って3年目。今シーズンからはキャプテンも拝命した脇坂は、自分自身とチームに重いテーマを課し、司令塔とチームリーダーの狭間でもがき苦しみながら、それでも必死に、少しずつ前へ進もうとしている。
(取材・文:藤江直人)