アーセナルがリード時に強い理由
前提として、アーセナルは「ハイライン」と「ローブロック」を使い分けることができる稀有なチームである。連動した「ハイプレス×ハイライン」で相手の自由を奪って試合を支配するのが彼らの主な戦い方ではあるが、“守り切る“と割り切って「ローブロック」を敷いても強さを発揮する。この2つの戦い方を状況に応じて高いレベルで実行できるのが、アーセナルがリード時に強さを発揮する理由である。
アーセナルのローブロックは相手のWGに対してSBとWGのダブルチームで対応し、仮にクロスを上げられてもゴール前を2人のCB+逆サイドのSB、マイナスの位置をアンカーの選手がスペースを埋めることでフリーの選手を作らせない。そして低い位置で無理に繋ぐことやボールキープをやめて、難しい時は迷わずクリアする。これを高い集中力で実行することで失点のリスクを抑えている。
ローブロックで成功した代表例がマンチェスター・シティとの第30節だろう。アウェイに乗り込んだこのゲームでアーセナルは、途中から試合に入った選手たちも含めた全員で集中した守備をみせてスコアレスドローに持ち込んでいる。
ただし、ローブロックで守り切るためには条件が必要だ。それが最終ラインに“守備に強いキャラクターを配置すること“ができるかどうかだ。すなわち、1対1の守備で脆さやボールウォッチャーになりがちなオレクサンドル・ジンチェンコはこの戦い方に合わない。マンチェスター・シティ戦でもヤクブ・クヴィオルが先発出場し、最後は怪我明けの冨安健洋が試合を締めていた。
今節は冨安がスタメンに入ったことで、このローブロックでの戦い方ができる環境にあった。ただ、「ハイプレス×ハイライン」というより相手を圧倒できる戦術的なオプションもあった中で、なぜ今節はマンチェスター・ユナイテッド相手に低い位置で守り切ることを選択したのだろうか。