「映像を見直してみないとわからない部分もありますけど…」
「結果として余裕を持ってクリアされるようなシュートになってしまった。あそこで決めていれば、おそらくこういう試合にはなっていなかった。その意味でも本当に悔しい、という思いでいっぱいです」
試合は30分に、昨夏に鳴り物入りで加入した元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミスが、通算13試合目にしてようやく決めた来日初ゴールで川崎Fが先制。勢いに乗ったゴミスは大南のビッグプレーが飛び出した直後の43分、さらに前半アディショナルタイム48分にも立て続けにゴールを決めた。
今シーズンのJ1リーグでは、ジュビロ磐田のFWジャーメイン良に次ぐハットトリックを、前半だけで達成した38歳のベテランの大活躍もあって川崎Fは快勝した。チーム全員で反撃を誓い合った5月に入ってあげた2勝目をクリーンシートで飾り、試合終了の時点で順位を4つあげて暫定11位に浮上した。
神業クリアの直後に大南と交わした言葉を「いや、あの場面はそんなに余裕もなかったので」と苦笑した上福元ははっきりと覚えていない。それでも、未勝利に終わった4月を含めて、川崎F本来のサッカーを追い求めてきた過程で、大南の傑出したパフォーマンスが加えられた末につかんだ勝利を喜んだ。
「映像を見直してみないとわからない部分もありますけど、まずはあのピンチに至る前に、自分たちで解決できた部分がたくさんあったと思う。その意味でも今後への課題としてつなげていきたいという意識を強く持ちながらも、あの場面で彼があのようなパフォーマンスを見せてくれたのは本当に素晴らしいとあらためて思う。何度も言いますけど、彼の強みと言える部分を存分に出してくれて本当に助かりました」
札幌戦が終わって数時間後。日付が12日に変わる直前に、大南は自身のインスタグラムを更新。心配するファン・サポーターへ向けて、ストーリー機能に次のようなメッセージを投稿している。
「今日も応援ありがとうございました!交代シーンでは心配をかけましたが、元気です!すぐ次の試合も来るので、チーム全員で勝つ準備をしていきます!」
ヒーローに注がれるまばゆいスポットライトは、言うまでもなく全ゴールを叩き出したゴミスが独占した。それでも、試合の流れを札幌に持っていかれかねない同点弾を未然に防いだ大南の神懸かったプレーは、それを目の当たりにした上福元と近藤の言葉を介して、伝説として語り継がれていく。
(取材・文:藤江直人)