「『おとり』でいい」「もう結構ぎりぎりだった」
「使わなくていいです。別に『おとり』でいい。周りの選手の方がクオリティが高いと思っているので。もちろん、自分のアシストも増やしたいですが、それが自分のアシストだと思っている。使われなくても、それは疎かにしないようにしたい」
横浜F・マリノス戦で言えば、浦和レッズは先制点のシーンのように左サイドからチャンスを作ることが多かった。右サイドは前田直輝が高い位置に張ることも多く、攻撃でも守備でも何度も長い距離をスプリントして味方を助ける動きを繰り返していた。おとりでいいからと、浦和のために走り続ける。
愚直にそれを続けることは決して容易なことではないはずだ。石原が走ることで、相手の意識は石原に向く。たとえパスが出なかったとしても、石原の無駄走りには意味がある。
育成年代の頃から積み上げた動きは、頭に刷り込まれ、身体に染みついているのだろう。「湘南の育成のときからとにかく対人を極めようとしていた。(遠藤)航さんが上(トップチーム)にいたときにアカデミーでプレーしていたので、航さんの1対1の映像もずっと見ていた」とそのルーツを明かす。
「今日は自分を褒めてあげたい。もう結構ぎりぎりだったんで」
身体が悲鳴を上げる限界まで走り続けたマリノス戦後、石原はそう言った。小学生時代から在籍してきた湘南を離れ、25歳となるシーズンに浦和へやってきた。酒井がいる右サイドバックとしての挑戦が簡単ではないことは誰もが理解することだろう。「宏樹君もそろそろ帰ってくるので、助け合いたい」と言うように、自身の立場を理解しながら、「もう今はとにかく自分で頑張りたいです。チームのためにという気持ちが強い」と意気込む。
強い浦和には、どの時代にも戦える選手がいた。決して器用ではないし、数字に残る活躍はあまりないかもしれないが、それでも石原はチームのために限界を超えて走り続ける。
(取材・文:加藤健一)
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