最大のネックは…
前任者のクロップが世界でも屈指のマネジメント能力を持つ監督だったため、誰がきてもやや見劣りするのは確かだ。しかしスロットはまだフェイエノールトの監督にも関わらず、リバプール行きを希望する旨を明言するなど、やや気が使えない部分があることは明らかだ。オランダメディア『NOS』によると、2020年にAZから解任された理由は在任中にフェイエノールトへの移籍交渉を行ったためらしい。コミュニケーションで幾らかの軋轢を起こすタイプなのだろう。
ただ現状、クロップの後任を務めるという本来ならプレッシャーがかかりすぎるチャレンジに手を挙げるには、幾分かの傲慢さがないと難しい部分がある。そう考えると今回の人事がこういうタイプになってしまうのは、多少、仕方がない部分もある。やはり普通の人間の感覚なら、「誰かが一度軽く失敗した後のリバプールの方がやりやすそう」と思うのではないか。
一方でスロットがリバプールで確実にマネジメントで失敗するというわけではない。この手の監督はシーズン序盤で結果を残せば、その結果で周囲を黙らせることが出来る。
実際、米スポーツメディア『The Athletic』によると、2022年のカンファレンスリーグ準決勝マルセイユ戦で、ロングボールを多用する戦術を採用したという。この考えに対して当初オルカン・コクチュら一部の選手はうんざりとしていたそうだが、実際にロングボールから得点が生まれてチームは3-2で勝利できたという。選手たちは監督の慧眼に納得するしかなかったという。
このように結果が出なければ印象が反転するリスクがあるものの、うまくいけばカリスマ性に繋がっていく。この辺りは紙一重の部分ではある。
ただ幸いなことにスロットはチームリーダーであるフィルジル・ファン・ダイクと母国語で会話することが出来る。あるいは副キャプテンであるアレクサンダー=アーノルドとも戦術的相性が高そうだ。このようにチームの中心的な選手の心を掴むことができそうな点はポイントが高い。多少の不満分子は彼らが間に入っていさめてくれるはずだ。
人間関係という観点で最大のネックになりうるのは、モハメド・サラーの存在ではないだろうか。現段階で来季残留か、退団かははっきりしていない。彼のプレーヤーとしての存在感を改めて説明する必要性はないだろうが、新監督との相性が未知数であることも間違いない。
以上がスロットがリバプールに訪れることで生まれる変化と、それに対する展望だ。主に変わっていく部分に焦点を当てたが、前線での守備意識の高さ、攻守の切り替えの早さなど、クロップと共通する戦術的思想もいくつかある。ドイツ人監督だからこそ作り出すことができた情熱的なサッカーは今季で終わりを迎える。しかしながらオランダ人監督と共に歩む新たな進化の旅もまた、これはこれで面白そうであることは間違いない。
(文:内藤秀明)
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