なぜありえた負け方だったのか
U-23日本代表は選手層が厚い。そしてチームとしての機能性は一貫していて、誰が出ても役割は踏襲されている。過密日程でも一定の水準を保つことができて、しかも選手の力量に大きな差がないので統一感が崩れない。この大会を戦ううえで非常に有利なチームとなっている。
一方で、あえて弱点に言及すると一定以上の力は出にくい。飛びぬけた存在がいないからだ。誰が出ても総力と機能性が変わらないということは、逆に言えば1人のために全体の構成を組み替えるほどのエースがいないことを意味する。
アルゼンチン代表にリオネル・メッシがいるかいないか、フランス代表にキリアン・エンバペがいるかどうかで、どちらも違うチームになる。この2人は極端な例だが、U-23日本代表にそうした例外的な選手はいない。
ただ、それがデメリットかというと、むしろメリットだと思う。全員の力が均衡しているとプレーのタイミングを合わせやすく、チームとしてまとまるからだ。あまりにも特別な選手がいると、その選手だけが浮き上がってしまい、合わせようとするとミスが出やすくなる。抜きんでた選手が他に合わせてレベルを下げると、それはそれで意味がない。
とはいえ、実力が均衡している相手と対戦した場合、一定水準のプレーはできるけれども絶対的な切り札を欠くので、運がなければ接戦を落とすこともありうる。この試合で切り札的存在だった平河を途中で交代させた影響もあったかもしれない。もちろん、より重要な次戦以降を考えての交代なので采配ミスではない。
今大会については合理的な編成になっている。パリ五輪の出場を決めた後におそらく合流する欧州でプレーする選手たちが加わったときにどうなるかは今後の課題だ。より強力な選手が加わることで生じるギャップによって総力が下がるか、短期間にそれを埋めてチームが進化するか。当然、その前に出場権を獲得しなければならない。次戦の相手は開催国のU-23カタール代表。ここから真価を問われる試合の連続になる。
(文:西部謙司)
▽著者:西部謙司
1962年9月27日生まれ、東京都出身。学研『ストライカー』の編集記者を経て、02年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、ヨーロッパサッカーを中心に取材。現在は千葉市に住み、ジェフ千葉のファンを自認し、WEBスポーツナビゲションでは「犬の生活」を連載中。サッカーダイジェスト、フットボリスタなどにコラムを執筆中。『ちょいテク 超一流プレーヤーから学ぶちょっとスペシャルなワザ』監修(カンゼン)、「サッカー右翼サッカー左翼」(カンゼン、)近著に『戦術リストランテⅣ』(ソル・メディア)、「ゴールへのルート」(Gakken) 、共著の『サッカー日本代表の戦術が誰でも簡単に分かるようになる本』(マイナビ)、『FCバルセロナ』(ちくま新書)がある。