「毎日毎日ボールに食らいつくことだけ」
【写真:Getty Images】
「頑張る選手には転がってくるんだ、努力は報われるんだ、と。ちょっと幸せな気持ちになりました」
守護神として前川が君臨する神戸における立ち位置も、もちろん理解していた。
「僕たちは優勝を目指しているので、僕が活躍してやろうとか、僕がポジションを奪ってやろうとか、そういった気持ちだけでは長いシーズンを戦え抜けない。どんなときでも試合に出ている選手を応援する、という気持ちも大事ですし、自分が出たときにしっかりやってやる、という気持ちも大事。いろいろなバランスがあって初めて強いチームになると思っているので、そこを重点的にやってきました」
胸中を明かした新井は、開幕直前のトレーニングで両上顎骨骨折、右上一番歯牙完全脱臼、下唇裂創と全治約6週間の怪我を負い、開幕から4試合続けてベンチ外だった。3月下旬に復帰し、2試合連続のリザーブから途中出場、そして先発を果たした過程で自らに課してきたテーマをこう振り返る。
「毎日毎日ボールに食らいつくことだけですね。それをやっていないと、いざ試合に出たときにまったく何もできなくなってしまう。常に試合に出られる準備を、練習のなかでやっているだけです」
ライバルであり、お互いをリスペクトし合う、かけがえのない仲間でもあるキーパーチームで切磋琢磨する日々が再び始まる。もっとも、新井は画竜点睛を欠いた思いを、今後への糧として抱いている。
後半アディショナルタイム96分。ペナルティーエリア内へ巧みに侵入してきたDFドレシェヴィッチが放った強烈なシュートが、至近距離にいた新井の股間を突いて1点を返された。
「悔しいですね。あれだけみんなが粘り強く最後まで粘ってくれたなかで、どちらかのサイドに来ればおそらく自分が止められたと思うんですけど、股間が空いてしまった。それがすごく悔やまれます」
反省の弁は町田戦に対してではなく、いつ巡ってくるかがわからない次戦へと向けられている。過去ではなく、常に未来をみすえる。さらなる成長を期す新井へ、吉田監督も「彼の経験も含めて、本当に頼もしく思っています」と目を細める。こんなゴールキーパーがリザーブに名を連ねるチームは強い。
(取材・文:藤江直人)