「いまの僕の気持ち的にはすごくいい状態」
【写真:Getty Images】
黒田監督に体の線が細いと思われた町田でも、すぐに先発を射止めたわけではない。夏場まではほとんどが後半途中からの出場。徳島時代よりプレー時間も減少しても藤尾は腐らなかった。日々の練習から高い強度を求める黒田監督の方針に順応するべく、地道な筋トレを課しながらチャンスを待った。
高温多湿がチームを蝕んだ夏場に、先発を続けるチャンスをつかんだ。チーム得点王のFWエリキが左膝に全治約8カ月の重傷を負い、戦線離脱した8月下旬からはデュークと2トップを形成。周囲の信頼を得ながら、J2制覇とJ1昇格へ向けたラストスパートをけん引した。
昨シーズンは最終的にエリキ、デュークに次ぐ8ゴールをマーク。その前節で町田が負けていたジェフ千葉との第19節、モンテディオ山形との第32節、ヴァンフォーレ甲府との第38節で半分となる4ゴールを決めて、黒田監督が最も忌み嫌った連敗の回避に貢献している。
同じ流れは熟慮した末に一番成長できる場所として、町田への完全移籍を決断した今シーズンも続いている。サンフレッチェ広島に攻守両面で上回られ、スコアこそ1-2と僅差ながら完敗を喫した前節から漂っていた嫌な雰囲気を、自身のゴールで断ち切った藤尾はちょっぴり胸を張る。
「チームは昨シーズンから連敗していないので、今シーズンもそれを継続していけば上位に食い込めと思っている。町田をいったん離れるけど、チームを信じて僕は戦ってきます」
川崎F戦を戦い終えた藤尾はチームメイトのMF平河悠とともに、大岩剛監督に率いられるU-23日本代表の一員として中東カタールへ出発。今夏のパリ五輪出場をかけたアジア最終予選を兼ねて、15日に開幕するAFC・U-23アジアカップへ向けて調整に励んでいる。
参加16カ国のなかで3位以内に入って、初めてパリ行きの切符を手にできる過酷な戦いへ。黒田監督は第一印象とは真逆の言葉を用いながら、カタールの地へエールを送っている。
「われわれの攻撃の軸となっている2人ですから、一番はケガのないように帰ってきてほしい、という親心のような思いもあります。それでも、日の丸を背負ってプレーする以上は責任もあるだろうし、国民全体が期待しているところもある。それだけのものをしっかりと彼らが感じながら、ピッチの上でそれを体現するような、そういったプレーをして帰ってきてほしい」
実は期待を託したくなる記録が継続されている。水戸時代の2021年7月17日の松本山雅FC戦を皮切りに、藤尾がゴールを決めた試合は徳島、町田で19勝8分けと27戦連続で無敗が続いている。今シーズンに限れば、町田が1-0で歴史的なJ1初勝利をあげた名古屋との第2節、北海道コンサドーレ札幌との第4節、そして10人で戦った川崎Fとの第7節とすべて敵地で3戦全勝となっている。
「勝って首位でカタールへ行けるという意味でも、いまの僕の気持ち的にはすごくいい状態なので、向こうに行ってもいい流れとメンタル状態で戦える。個人として結果を出すのも大事だけど、やはり日本がオリンピックの切符を獲得するのが一番大事なので、そこに注視して戦ってきたい」
2022年3月に発足した大岩ジャパンでも、藤尾がゴールを決めた4試合では3勝1分けと不敗が続いている。チームが苦境に陥るほど、ゴールだけでなく愚直さと泥臭さで勝利を手繰り寄せられる男。もともと身にまとっていたオーラを、新天地でさらにたくましく増幅させた藤尾は町田と同じ「9番」を託され、16日のU-23中国代表とのグループリーグ初戦へ静かに闘志を高めている。
(取材・文:藤江直人)
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