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Jリーグ 8か月前

藤尾翔太の第一印象は「使えるのかな…」。FC町田ゼルビアで、なぜここまでの進化を遂げたのか【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

「僕があの位置でボールを持ったら…」



 自陣の左タッチライン際でパスを受けた町田の左サイドバック、林幸多郎がひと呼吸置いてから、前方のスペースへ走り込んできたボランチの仙頭啓矢へパスを送る。川崎Fのアンカーの両脇に広がるスペースを突く町田の作戦。仙頭は普段の練習からサイドハーフの選手へこんな注文を出していた。

「僕があの位置でボールを持ったら、前方のスペースへ走ってくれと常に要求していた」

 戦略通りに仙頭は左足のワンタッチで縦パスを放つ。攻撃的なポジションを主戦場としてきた川崎Fの右サイドバック、瀬川祐輔を内側からトップスピードで追い抜き、さらに引き離していく左サイドハーフの藤本一輝が走り込んでいくコースと、ボールの行き先が一致した直後だった。

 藤本が選択したのは利き足とは逆の左足による、これもワンタッチのグラウンダーのクロス。すでに足を痛めていたのか。ニアへ戻るDFジェジエウの足取りがおかしい。チャンスの匂いを嗅ぎ取った藤尾はこのとき、DF高井幸大と駆け引きを繰り広げながらファーを目指していた。

「あそこでオフサイドにかからないように、相手のディフェンスラインと駆け引きをしていたんですけど、最後は僕の体の方が幸大より前へ出ていたので、いいボールが来れば決められると思っていた。相手のキーパーとも駆け引きをしていたところへ、思った通りのいいボールが一輝から来たので」

 失点後に交代を告げられたジェジエウが、中途半端な位置にいたためにオフサイドはない。高井は藤尾のマークを捨てて、スライディングでのクリアに切り替えるも届かない。飛び出そうとした川崎Fの守護神チョン・ソンリョンも、高井と交錯しそうになって動き直しを余儀なくされた。

 川崎F守備陣の混乱ぶりを見越していたのだろう。ノーマークになった藤尾はさらに外側へと膨らみ、必死に体勢を立て直して突っ込んできたチョン・ソンリョンも間に合わない地点で、相手ゴール前を横切ってきたクロスに余裕を持って右足をヒット。ゴールネットを揺らした。

 最初にビッグチャンスを迎えたのも町田だった。開始9分。高井がMF山本悠樹へ放った縦パスに、ボランチ柴戸海が鋭い出足で突っかける。こぼれたボールに誰よりも早く反応したのは藤尾。そのまま抜け出して左足でシュートを放つも、チョン・ソンリョンのファインセーブにあった。

 決め切れなかった自身を責め、ショックを引きずりかねない場面。しかし、藤尾の思考回路は違った。フォワードに必須な加点主義の持ち主だと屈託なく笑う。

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