「結局は相手ありき」サッカーをどう解釈するか
先の高校サッカー選手権での躍進で、前田監督の経歴にスポットライトが当たった。清水エスパルスに2年間在籍したのち、ドイツやシンガポールなどでプレーした経歴を持つ。現役引退後は関西学院大学に入学し、バックパッカーとして海外を渡り歩いたこともある。
近江のスタイルは前田監督がプレーしたこともあるドイツのエッセンスを感じさせるが、それが直接的にスタイルにつながっているわけではないという。
「ドイツにもいましたけど、それがルーツではない。よく(同県の)野洲高校とも比べられますけど、当時(野洲高校が優勝した2005年度大会)はドイツにいたので(笑)」
近江高校のサッカーの源流はどこにあるのか。答えはないのかもしれない。前田監督がこれまでの経験の中で培ってきたものと、近江高校で指導する中で研ぎ澄まされていったものが合わさり、唯一無二の哲学がピッチ上で具現化される。前田監督は理想を明かす。
「相手を錯乱状態にしたいですね。何をしていいか分からない、(相手の)辞書に載っていない状態ですね。当然、肉体的なダメージもありますけど、サッカーってメンタルのスポーツだと思うんです。たとえば、スペインにはティキ・タカという概念がありますよね。もちろんショートパスをつなぐスタイルのことを指しますが、パスをつなぐことで相手の思考を止めて精神的にくじかせるというメンタル的な要素もあるそうです。結局、相手ありきで考えるということが大事だと思います」
30歳のときに近江高校サッカー部の監督に就任し、9年目に突入する。指導者としての経験値は積み上がっていくが、「一緒のことをやっていると飽きてくる。再現性があり過ぎても面白くないですからね」と本音を明かす。先述した「こちらが思っている以上の発想が出たときに魅力が出る」という言葉にもつながる。
そんな心情が前田監督を新たな挑戦へと突き動かす。4月からは二足の草鞋、二刀流の日々が始まるという。