「先発の11人が実は一番頑張りますからね」
「自分の年齢、この先のキャリアを考えても、試合に出て勝利に貢献したい、楽しくサッカーをしたいという思いは日に日に強くなり、それが移籍の決断につながりました」
31歳の昌子が抱く覚悟と決意はキャンプ中の練習で、周囲にひしひしと伝わった。ゆえにキャプテンに選出され、黒田監督も全幅の信頼を寄せる。しかし、怪我が治ったからと言って無条件で試合に出られるわけではない。指揮官も「怪我は問題ない」とした上で、昌子にこう言及している。
「チャン・ミンギュの出来が非常によかった、という面がある。ここまでチームとしても大崩れしていないので、代えるタイミングがなかったという事情もある」
昌子の代わりにドレシェヴィッチとセンターバックを組んだ、U-22韓国代表に選出された経験も持つ25歳のチャン・ミンギュがここまで全試合にフル出場。身長183cm体重79kgの体をフル稼働させ、昨シーズンに続いて初めて経験するJ1の戦いでも、町田の最終ラインで高さと強さを発揮した。
治療とリハビリから復帰へ向かう過程で、外から見ていた町田に抱いた思いを昌子はこう振り返る。それは町田の「鉄則」だと言わんばかりに言及した、チーム全体に浸透する慢心のなさに通じていた。
「日々の練習から手を抜くのを黒田監督が嫌うし、そうしないと『試合には出られない』とはっきりと言われる。なので、選手もピュアというか、それがもう当たり前になっている。連勝中は先発メンバーもあまり変えずに戦っていたけど、先発の11人が実は一番頑張りますからね。僕は昨シーズンを知らないのでちょっとあれですけど、先発で出られない選手たちは苦しい思いをしているし、もしかすると不満があるかもしれない。それでも、こうした基準でやっている以上は、それらを自分のなかで押し殺しながら、もっともっと頑張らないといけない、と全員が思える集団になっているのではないか、と」
一方で中断明けに対戦する鳥栖を、ビルドアップでさまざまな工夫を凝らしてくるチームとして黒田監督は警戒していた。十八番であるロングスローを起点に、開始5分に決まったFW藤本一輝のJ1初ゴールで幸先よく先制できた一戦は指揮官が危惧した通り、時間の経過とともに様相を変えてきた。