恐怖心を打ち消した覚悟
「相手の監督が喝を入れたのか、目の色を変えて戦ってきたなかでロングボールが増えた」
板倉の、そして日本の脳裏にトラウマが蘇ってくる。実際、後半開始早々にロングボールのこぼれ球を拾われてシュートを放たれた。右ポストに当たって九死に一生を得たと胸をなで下ろした直後に、別の選手にゴールネットを揺らされた。これは直前に相手のファウルがあったとして、得点が認められなかった。
判定に異を唱えた北朝鮮の選手たちが、UAE(アラブ首長国連邦)の主審を取り囲む。明らかに流れが変わり始めた後半のピッチ上で、板倉は必死に勇気を振り絞りながら最終ラインを統率した。
「ファウルで救われた場面が一度ありましたけど、実際に相手の勢いやアグレッシブさを感じていたし、セカンドボールや球際の攻防で相手にボールがこぼれるケースも増えていた。相手もポジショニングのところで真ん中を捨てて、高いラインで横並びに選手を配置してきたのもあった。こういう試合はすごく難しいというか、早い時間帯で幸先よく先制できて、なかなか追加点を取れないなかで試合が進んでいくと、守っている側としても、どうしても『危ないかもしれない』と思ってしまうのもあった」
恐怖心が浮かぶたびに、絶対に勝つ、という不退転の覚悟と決意をもって打ち消していく。コロンビア戦の、何よりもイラン戦と同じ結果にだけはさせない。自分との戦いでもあったと板倉が続ける。